前回の当コラムで「円安、セカンドステージへ」と題したレポートを書きました。
ドル円相場は125円台からのトレンドラインを上抜け113円台に達し、円安がさらに進むように見えましたが、トランプ大統領がツィッターでドル高に対して不満を表したこと、それと日銀が金融緩和の副作用に配慮するため政策変更するとの報道があり、110円台後半へといったん崩されました。
実質的なゼロ金利が半永久的に続く
注目された日銀による政策変更は、非常にわかりにくいものでした。ポイントはゼロ±0.1%に押し込まれていた10年物国債の金利を「経済・物価情勢等に応じて上下にある程度変動しうるもの」としたことです。
記者会見で黒田総裁は、変動の幅を「ゼロ±0.2%程度」と示唆しました。上方向だけでなく、下方向もあるということで、政策はきわめてニュートラルだということを意図したわけです。
しかも同時に、「政策金利のフォワードガイダンス」なるものまで導入しました。来年の消費税導入も踏まえて、当分の間、現在のきわめて低い長短金利の水準を維持するとしました。
これだけわかりにくくなったのは、先走りがちなマーケットに「金融政策の転換」と誤解されることだけは絶対に避けたいと思ったからでしょう。円高だけは何としても避けたいのです。
表現の複雑さとは反対に、日銀の意図は明確だと思います。とにかく、現状のきわめて緩和的な政策をできる限り続けるということです。実質的なゼロ金利が半永久的に続くということです。
今後、長期金利は少しは上昇しますが、10年0.1%が0.2%になる、それだけです。大勢には影響ないでしょう。
内需盛り上がらず、方向性は「円安」
ドル円上昇の障害は二つです。一つは、ドル上昇を嫌うトランプ米大統領です。米財務省も円をかなり割安とは見ています(米為替報告書より)。もう一つは、コンスタントに続く日本の経常黒字です。
市場関係者の中には、米国は意のままに為替相場を動かすことができると考えている人たちがかなりいます。プラザ合意以降のドル安円高相場、米要人のひと言で相場が動いてきた歴史を知っているからです。
しかし、金融を引き締めしながら、ドル安を望むことは矛盾しています。そして表向き、政治的に為替を操作してはいけないことになっています。日本は防衛政策を米国に依存しているという現実があります。それゆえ、米国の意向を過度に「忖度」してしまうのかも知れませんが、今回の貿易戦争、米国が直接相手するのは中国であり、日本では(おそらく)ありません。
もう一つの経常収支の黒字、こちらはより本質的な問題です。しかも黒字は年々大きくなっており、今年もおそらく20兆円を超える金額になるでしょう。しかし、20兆円以上の金額が外に出れば円安になるということです。企業が外への投資に積極的になっている今、それは結構低いハードルだと思います。
ドルの上昇は、一たんは頓挫したように見えますが、日本の金利はずっとこの先「ゼロ」です。金利が上昇するとすれば、インフレが上昇するときでしょうが、内需が盛り上がるようには見えない今、円安がかなり進行するという経路しか見当たりません。円安がかなり進み、どうしても金利を上げて止めなければならない、そうした瞬間が来るまで日本の金利は低いままでしょう。
やはり今後、円安相場がやって来るように見えます。(志摩力男)