デフレ脱却を目指す日本銀行の懸命な努力にもかかわらず、物価は一向に2%目標に届く気配すらない。
そんななか、興味深い調査結果が出たので紹介しておこう。
42歳...... 賃上げ、もはや諦めている?
調査対象となった上場企業の56%が物価の上がりにくい要因として、「消費者の根強いデフレマインド」を挙げたとのこと。ちなみに、2番目の要因として37%が「賃金の伸び悩み」を挙げている。しばしば指摘されているネット通販の拡大による影響、いわゆる「アマゾンエフェクト」は4%と、少なくとも企業サイドはあまり重視してはいない様子がうかがえる。
ここで述べられている「根強いデフレマインド」とは、どういった心理状態のことを指すのだろうか――。じつは、日本独特の賃金制度が深くかかわっているというのが筆者のスタンスだ。
日本企業の賃上げは、勤続年数や働きぶりをもとに昇給幅を決める定期昇給と、全体の賃金水準を底上げするベースアップを合わせて行うスタイルが一般的だ。年俸制のように会社と交渉する余地はほとんどないが、下がることがまずないので低位安定した賃金水準が保証されることになる(ベースアップはほぼ行われなくなったため、以後は定昇で統一)。
ただし、定昇といっても、すべての年代の従業員が実施されるわけではない。実際には40歳を過ぎたあたりからどんどん昇給幅が抑制されるか、昇給に査定成績などで厳しい条件が付されるようになり、45歳あたりで事実上の頭打ちになる人が大半となる。
むろん、「課長→部長→事業部長→役員」といった具合にとんとん拍子に出世する人は役職手当で賃上げがなされるが、そういう人は今どきレアケースだろうからここでは省く。 総論としては、45歳あたりで普通のサラリーマンは定昇が事実上の頭打ちになるということだ。
加えて、日本企業自体の高齢化も見過ごせない。パナソニック45.6歳、日立41.7歳のように、上場企業全体でも今や従業員の平均年齢は40歳を超えているのが実情だ。つまり、大企業で働く人たちの半分くらいは、じつはすでに賃金が頭打ちになっている可能性が高いということになる。
中小企業は大手以上に高齢化が進んでいるため、一部の新興企業を除けば状況は似たり寄ったりだと思われる。
「天から降ってくる」意味不明な社会保険料
その一方で、安定的に増え続けているものもある。
それは給与から天引きされる社会保険料だ。消費税は2014年にやっと3%ほど引き上げられたが、社会保険料は過去20年ほどほぼ一貫して引き上げられ続け、事業主負担分も考慮するといまや実質的な負担は40%を超えている。
(参考:サラリーマンが目先のベアより社会保障の抜本改革を要求すべき理由)
そして、それはおそらく今後も上がり続けるだろう。まとめると、企業で働く人の半分くらいは、賃上げをすでに諦めており、むしろ今後は天引きのさらなる増加によって、可処分所得が減ることを薄々感づいている可能性があるということだ。
「おそらくもう自分の賃金は上がらないだろうが、天引きはまだまだ増えそうだ」
筆者は「根強いデフレマインド」の根っこにあるのは、こうした心理状態ではないかと考えている。そりゃ消費も増えないし、企業もおいそれと値上げなんてできないだろう。
だとすれば、状況を打開するのは並大抵のことではない。とりあえず、社会保障給付の膨張にメスを入れる大改革に取り組みつつ、労使には「誰でも何歳からでも、大きく賃金アップを勝ち取れる流動的な人事制度」を導入してもらう以外に道はない。
20代から50代まで幅広い労働者に「一生懸命頑張って成果を上げさえすれば、来年のボーナスは100万円アップしてもらえるぞ」という確信をもって業務に取り組ませつつ、意味不明な社会保険料が突然天から降ってくる、なんて状況をなくさない限り、デフレマインドなるものは打ち消せないということだ。