日本人の寿命が伸び、高齢者がどんどん増えている。それに伴い、介護サービス業の需要が高まるなか、事業者の倒産がなぜか史上最多を記録する勢いだという。
かつては「成長産業」といわれた介護サービス業界に何が起こっているのか。この不思議な現象を追ってみると――。
需要最多の「訪問介護」「デイサービス」が深刻
東京商工リサーチは2018年7月9日、「老人福祉・介護事業所(介護サービス事業)の倒産状況」をまとめた最新リポートを公表した。今年1~6月の全国の倒産は45件。前年同期の40件を上回り、上半期としてはこれまでで最も多くなった。
今年4月に介護報酬が0.54%引き上げられたものの、前回(2015年)の介護報酬改定で一気に2.27%も引き下げられたことが響いたようだ。年間では過去最多を記録した昨年(111件)を超える最悪のペースで推移している。
倒産した事業所の規模をみると、従業員が5人未満のところが約6割の57.7%(26件)を占めている。設立から5年未満が約3割の28.8%(13件)となっており、小規模で経験の浅いところが最も多い。
東京商工リサーチでは「新規参入しても営業基盤が固まらないうちに、資金が続かなくなったり、社内体制の整備が間に合わなかったりして、淘汰に追い込まれる実態が浮かび上がる」とみている。
業種別では「訪問介護」と「通所・短期入所(デイサービス)」がそれぞれ18件と最も多く、この2つで8割を占める。次に多いのが「有料老人ホーム」(7件)だ。
訪問介護とデイサービスに倒産が増えている実態は、かなり深刻という。要介護者で老人ホームに入居している人は、わずか15%程度にすぎない。残り85%の要介護者は在宅介護を受けており、これら訪問介護やデイサービスに頼らざるを得ないからだ。
では、いったいなぜ介護サービス事業に倒産が増えているのか――。高齢者の増加で「成長産業」と喧伝されたため、新規参入が相次ぎ、同業他社との競争が激化。それにより経営力、資金力に劣る事業者の淘汰が加速していることが大きい。また、介護職員の人手不足が深刻になり、離職を防ぐための人件費上昇が経営を圧迫している。
介護職の有効求人倍率は5倍を突破
皮肉なことに、介護職場は仕事内容がキツイこともあり、「景気が悪い時は採用が順調だが、好景気になると他業種へ流出して人手不足になる」といわれ、景気と逆行する傾向が強い。景気が回復傾向の現在、都市部では介護職の有効求人倍率は5倍を突破した。介護職の希望者1人に対し、5社以上の事業所が殺到するありさまで、人材の採用コストが跳ね上がっている状況だ。とりわけ小規模事業者は業績低迷に、資金的な制約も抱えており、人手の確保が難しくなっている。
そのため、東京商工リサーチは「今年4月の介護報酬の0.54%のプラス改定は打開策とはなっていない。政府は社会保障費の抑制に向け、介護サービス業の経営安定化を図るため、合併などで事業規模の拡大を促そうとしている。そのために、許認可条件に『財産基準』を導入する考えだ。今後、経営基盤の脆弱な事業所が『ふるい』にかけられることは避けられない」と指摘している。
今後、もっと倒産が増えるというわけだ。
10に1つの成功で利益、フランチャイズ系が乱立
ところで、こうした介護サービス業の倒産について、インターネットの掲示板では介護系サイトを中心に「当然」とする、冷ややかな声が多い。事業者が玉石混淆の状態が理由のようだ。
「フランチャイズ系の事業者が軒並み潰れている。こういう事業者は、10ある事業所のうちの1つでも成功すれば本望だし利益が上がるという。無責任極まりないフランチャイズ事業者のおかげで、介護事業所が乱立、経営難に陥るケースがあまりにも目立つ。フランチャイズに規制をかけることが必要だ」
「私の市は高齢化率が高く、高齢者住宅が増えている。経理に無頓着な訪問介護事業者が、不動産屋に乗せられて高齢者住宅を始めたが、半年で倒産。親の不動産も抵当に入り、すべて売却された。市内にはこうした経営基盤の危うい高齢者住宅がゴロゴロしている」
「あるデイサービスで生活相談員として働いているが、管理者は併設している整骨院の医院長で、その口癖が『指摘されたら、直せばいいでしょ』。どんな調査で、こんないい加減な所が許可されたのか。すべては許可する公の場から見直す必要がある」
そして、利用者にこうアドバイスする声も――。
「(倒産した)事業主も最初は熱い志を持っていたのだろうが、収入が増えると、高齢者が商売道具か札束にしか見えなくなる。包括支援センターも事業主の実態を調べ上げ、市民に案内すべき。初期対応としては、高齢者の家族も情報収集をして、怪しい事業主に大事な家族を託さないことだ」