「高齢化、高齢化、って騒がれると、自分らが帰還しちゃいけない、って言われている気になるよね」
高齢者の健康問題についてお話しした後、あるお年寄りが苦笑いしながら言われました。
全国の多くの地方と同じく、被災地では急速な高齢化がしばしば社会問題として取り上げられます。いわゆる「生産年齢」ではなくなり、近い将来要介護者になる住民が多い社会。私たちの中には、そういう社会に対する漠然とした不安感があると思います。
「暴走老人、大募集」と帰還呼びかけ......
たしかに被災地に真っ先に帰還した方の大半は、60代以上の方です。ではそれは、
「ほかに行くところがなく、仕方なく戻ってきたお年寄り」
の姿なのでしょうか?
これまで復興の地を見ていると、それは逆ではないか、と感じることがよくあります。
津波と原発事故にすべてを奪われた街で、がれきの山に向かって一歩を踏み出す強さ。それは何よりもまず「長い年月を生きる」ということを知っている者にしか持てない力だったのではないでしょうか。その能力を持った人が真っ先に戻った結果、たまたま高齢化が進んだだけ。エネルギーに溢れる復興の街をみると、そう感じます。
2017年3月末に避難指示が解除された飯舘村に、いち早く帰村したのは60代のYさん。元々冷害の多かった飯舘でこれ以上米を作るよりはと、水田を牧草地に変えて放牧を始めています。
「今じゃないとこんなに土地を買えなかった。もちろん賠償金や補助金も、もらえるものはもらいますよ」
愉快そうに話される裏では、あぜ道の除去、除染、試験放牧と繰り返される放射能測定など、地道で先の見えない作業が続きます。体力的にも楽な仕事ではないと思いますが、今、若者に帰ってこいとは言わない、とYさんは言い切ります。
「土台作りは俺らがやるから、あとはお前らがやれ。15年後か20年後に帰りたくなった若者にそう言って渡せばいい」
挑戦もしないであきらめたくない、というご自身を「暴走老人」と自称され、「飯舘村は、暴走老人大募集!」と、同年代の帰還を呼びかけています。