「トランプ相場」に翻弄される外国為替市場で、新興国通貨のトルコリラとメキシコペソの評価が割れている。
どちらも高金利通貨として魅力ある通貨だが、トルコリラは2018年5月、対円で22円台後半の最安値をつけるまで値下がり。一方のメキシコペソは16年11月に史上最安値の1メキシコペソ=4.97円を付けたが、7月には5円半ばに踏みとどまっている。
トルコリラとメキシコペソ、その明暗を分けているのは何なのか――。
楽観視されるメキシコペソ
1メキシコペソ=5円程度と、少額で購入できることや、買っておくだけでスワップポイント(金利差収入)が得られると、注目されているメキシコペソ。スワップポイントでは、FX(外国為替証拠金)会社の中には1か月保有するだけで4000円以上のスワップポイント(10万メキシコペソの買いポジションの場合)を得られることもある。
そんなメキシコペソは、北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉での合意が難航していることや米国長期金利の上昇による金利差の縮小を背景に、通貨安が進んできた。
そもそも、メキシコペソの相場は2014年11月に1メキシコペソ=8.5円を付けていた。それが輸出の約1割を占める原油の価格下落とともに、メキシコペソも下落基調となり、さらには16年11月、米大統領選で「米国ファースト」を掲げるドナルド・トランプ氏が当選したことで、1メキシコペソ=4.97円まで下落した。トランプ米大統領の「国境の壁」や国境税の導入などの厳しい発言が、そのきっかけとなった。
その後、メキシコ中央銀行が相次いで利上げを実施。メキシコペソは反転したものの、トランプ米大統領の発言ひとつで乱高下する展開となった。
とはいえ、トランプ大統領がメキシコを「敵視」するのは、少なくない米国企業のメキシコ進出が背景だ。米国企業は人件費の安いメキシコに工場をつくり、米国向けに輸出している。NAFTAから米国が離脱すれば、メキシコ経済の打撃はもちろん、米国企業にもダメージが及ぶというワケ。トランプ大統領もそうそう強硬な姿勢はとれないと見る向きは少なくなく、それがメキシコペソが楽観視されている理由でもある。
米国の長期金利の上昇で、金利差の縮小による対米ドルの通貨安は、日本円もユーロもポンドもオーストラリア(豪)ドルもニュージーランド(NZ)ドルも同様だが、そうした中でメキシコペソはむしろ頑張っているのではないか。
下値は堅く、頻繁に取引しない、高金利通貨ならではのスワップポイント狙いの長期保有にピッタリの通貨といえるかもしれない。
混沌とする中東情勢がトルコリラの下落誘う
一方、トルコリラは暴落した。2018年5月23日早朝、トルコリラが対円で一時22円台後半に突入。過去最安値を記録した。その原因のひとつが、トルコの政治情勢が不安定なことだ。
欧州とアジアを結ぶ要所にあり、どちらかといえば欧米重視の外交を展開してきたトルコだったが、トランプ米大統領が「エルサレム」をイスラエルの首都と認定したことやイラン核合意からの離脱を一方的に発表するなどで対立が激化。イスラム色の濃い、トルコのエルドアン大統領(64)が2017年12月、パレスチナの首都である「東エルサレム」にトルコ大使館の開設を表明するとともにパレスチナを「国家」とした。さらに、トルコはロシアやイランとの距離を縮めており、中東情勢の混迷に拍車をかけつつある。
加えて、エルドアン大統領がトルコ中央銀行の利上げに横ヤリ。その独立性への懸念が高まったことも、投資家らの「トルコリラ売り、円買い」を加速させた。
周知のとおり、トルコリラは高金利通貨だ。2013年には一時4.5%まで下がったが、17年以降は8%まで戻した。それが18年5月には16.5%に、さらに上昇した。
他の高金利通貨であるNZドル(1.75%)や南アフリカランド(6.75%)、メキシコペソ(7.5%)と比べてもかなり高い(2018年6月29日現在)。トルコリラは、この金利差(日本円、0.1%)を利用するスワップポイント狙いで注目を集める通貨だが、ジワジワ値下がりが続いていた。
ヤバイ! トルコのインフレ率 7月は13%台に突入?
そうしたなか、6月24日にトルコで、7月1日にはメキシコで、今後の為替相場のゆくえを左右しかねない大統領選があった。 トルコは、「反米・反トランプ」のエルドアン大統領が再選を果たしたことで、強硬的な外交政策を続く公算は大きく、シリアやイラクへの軍事介入が懸念される。欧米との関係改善は進まず、そのツケで、トルコリラ売りと物価高の悪循環への懸念もまた高まっている。
6月29日の為替相場は予想外のトルコリラ高で、1トルコリラ=23円45銭。15日終値の1トルコリラ=23円35銭から、10銭ほどのトルコリラ高円安だった。
一方のメキシコ大統領選も、左派(反米的)のロペスオブラドール氏(64)が当選確実と、7月2日に報じられた。
どちらも反米的な立場で、通貨の下落圧力は強まりそうだが、外為どっとコム総合研究所・調査部長の神田卓也氏はトルコのインフレ率を問題視している。
7月には13%に達しそうな勢いで、
「インフレ率が高いのに、エルドアン大統領は中央銀行の利上げをけん制するような発言に終始していた。それでは通貨価値が下がるのは当たり前。その一方、トルコは経常収支と財政の『双子の赤字』に苦しんでおり、放っておけば財政破たんしかねません。これが最大の懸念材料です」
とみている。
これに対して、メキシコのインフレ率は4.5%(5月)。神田氏は、
「このインフレ率の差が、評価を分けている『差』でしょう」
と分析。
「メキシコペソはトランプ政権誕生後から下落基調ですが、買い戻しが入っています。この買戻しがあるかないかの差ともいえます」
トルコは、米国との関係や中東の地政学リスクと、不透明感が漂う。一方のメキシコは、ロペスオブラドール大統領が反汚職を掲げ、また財政規律を保ち、米国との友好的な関係を求めること、原油企業の民営化を容認する姿勢をみせており、為替市場では今後への期待感が膨らんでいる。