2018年6月21日付の東京新聞で、竹中平蔵・東洋大経済学部教授が「生産性の低い人間に残業代という補助金を支払うのはおかしい」と発言し、話題となっている。
筆者からすると当たり前すぎて、いったい何がおかしいのかまったく理解できない常識的発言だが、どうも左翼界隈の面々からは容認しがたいようで、バッシングの対象となっているらしい。
とはいえ、未来ある若手ビジネスパーソンが左派のおかしなロジックに染まってはなんだから、筆者がきっちり解説しておこう。
人件費の総額は事業環境で決まる
当たり前だが、法律で「払え」と命じれば無限に予算が付くわけでも、経営者が身銭をきって建て替えるわけでもない。人件費の総額は事業環境で決まるものだ。わかりやすくするために、従業員AとBの2人しかいない会社があるとしよう。担当業務のレベルは同じで、基本給も同じ月30万円とする。
テキパキ仕事をこなすAさんは、いつも定時で仕事を終えて帰宅する優等生だ。一方のBさんはなんだかんだと席に残り、月50時間の残業を付け、残業手当を月に10万円ほど受け取っている。結果的に、仕事の遅いBさんのほうに残業代という「補助金」を支給しているとの指摘は、まさにそのとおりだ。
問題は、その「補助金」をだれが負担しているのか、ということだ。これも当たり前だが、人件費の総額には限りがあるのだから、発生した残業代はボーナスや昇給額に確実に影響することになる。
特に基本給を昇給させれば、その分の残業代も増えるわけだから、特に慎重にならざるを得ない。結果的に言うと、ボーナスや昇給額の抑制というカタチで仕事の遅いBさんの残業代10万円を負担しているのは、仕事のデキるAさんということになる。
デキの悪い人を優遇する会社からはデキる人が流出する
このような事実は、わざわざ筆者が指摘するまでもなく、頭のいいビジネスパーソンであればみんな、肌感覚としてしっかり理解している基本だ。
ネットで騒いでいるのは、とにかく労使対立を煽りたい左派か、「仕事ができないことで補助金を受け取っている側の人間」なので、未来ある若手は無視しておいて構わない。
それでも、「いや、労働者はちゃんと席に座っていた時間で報われるべきだ」と考える人には、以下のアドバイスをしておこう。
仕事のできるビジネスパーソンは、上記のアングルなんてとっくに理解しているから、長期的にはだいたい「時間によらずに成果で評価するマネジメントの確立している企業」に転職していくだろう。
上の例でいえば、Aさんみたいなタイプは流出して、代わりにBさんそっくりの人材だけで固まるようなイメージだ。そんな組織の中で損をせず得する側に回るにはどうすべきか。頑張ってBさんよりいっぱい残業するのが、元を取るための唯一の道だろう。
なお、仕事の遅い連中ばかりで固まった結果、業績が下がって人件費そのものが下がるリスクについては、往々にして起こり得ることだがここでは考慮しない。
(城繁幸)