東京人にはわかるまい!? 「セブン‐イレブン」に恋い焦がれた13歳(北条かや)

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   若い頃、憧れていたブランドというのは誰にでもあるものだ。1986年に石川県で生まれた私にとっては、それがギャル系のファッションブランドの「109のセシルマクビー」や「アルバローザ」だったり、「ヒステリックグラマーのショッパー(ショップ袋)」だったり、私が10代の頃はまだ石川県に出店していなかったコンビニエンスストア、「セブン‐イレブン」だったりした。

   「たかがコンビニ」に憧れるなんて、変わってるねぇ...... と思ったそこのアナタはきっと、都会で生まれ育ったのだろう。セブン‐イレブンは1974年に東京で生まれた「全国チェーン」だが、出店エリアには意外とムラがある。ちょっと前までは、全然「全国」じゃなかったのである。

  • セブン‐イレブンは「都会」であることの証しかもしれない(写真は、千代田二番町店。2017年12月7日撮影)
    セブン‐イレブンは「都会」であることの証しかもしれない(写真は、千代田二番町店。2017年12月7日撮影)
  • セブン‐イレブンは「都会」であることの証しかもしれない(写真は、千代田二番町店。2017年12月7日撮影)

あぁ、なんだかオシャレな響き!

   2000年代後半になるまで、石川、富山、福井の北陸3県や四国地方にはセブン‐イレブンが1店舗もなかった。東北では2012年に秋田県でオープンし、青森に出店したのはようやく2015年になってからだ。鳥取県にも同じく、2015年まで1店舗もなかった。

   ローソンやファミリーマートが全国47都道府県に出店しているのに対して、セブン‐イレブンにはムラがあった。今でこそ、未出店エリアは沖縄のみだ(2019年に初オープンするらしい)が、かつては明らかに「田舎への出店を渋っている」感があったのである。

   そう、田舎出身の私は今、ちょっと怒っている。かつてセブン‐イレブン不毛地帯だった石川県で、のびのびと中学生活を送っていた頃の、とある事件を思い出したからだ。

   当時13歳だった私は、新潮社の「ニコラ」というローティーン向けファッション誌を愛読していた。誌面を通して何人かの女子と「文通」をしており、そのうちの一人がたまたま隣町に住んでいたので、「一緒に金沢で遊ぼう」となったのである。

   ひと昔前ならメル友とのオフ会、今ならツイッター経由で知らない人と会うようなものだろうか。危険といえば危険だが、アナログな手紙でやり取りしていたので、相手が趣味の合う同い年の女の子だということはわかっていた。

   ドキドキしながら金沢駅で待ち合わせ、意気投合した。繁華街のファッションビルなどをひと通り歩き、マクドナルドでお昼を食べ終わった頃に、その友人が言ったのである。

「都会には必ず、『セブン‐イレブン』ってコンビニがあるらしい。私の町にはないけど、金沢市なら都会やし、どこかにあるかもしれん」

   セブン‐イレブン......? なんだかオシャレな響きだ。都会にあるというだけで、最先端を感じさせた。その「都会特有のコンビニ」は、オレンジ色っぽい看板。限定の化粧品なんかも売っているらしい。

   「よし、探そう!」と盛り上がった二人である。金沢市内を走るバスに乗り、「人が多くて都会っぽいエリア」をひたすら探し回った。

「都会には必ず、セブン‐イレブンがあるらしい」

   しかし、当然ながら当時はセブン‐イレブンなど、石川県どころか北陸地方にも未出店だったので、探しても見つかるはずはない。

「あれかな?」
「いや、あれは似とるけど『サークルK』や」
「じゃあ、あれは?」
「......『サンクス』や」

   まるでツチノコを探すかのように、「アレも違う」「これは怪しいな」と思ったらデイリーヤマザキかぁ、サンクスかぁ、似てるけど違うよなぁ......とブツブツ言いながら、日が暮れるまで金沢市内を練り歩いた。

   気がつけばプリクラを撮ることも忘れて、数時間も経過していた。歩き疲れて、どちらともなく「もう、諦めよう」と歩みを止めた。日は暮れかけている。田舎方面へ戻る普通電車は1時間に1本しかないので、そろそろ帰らければ......

   「セブン‐イレブン、なかったね」「うん、なんでやろうね」「金沢なら都会やし、絶対あると思ったんにね」「やっぱり東京にしかないんかなぁ」と言い合って別れたのを、今でも鮮明に覚えている。

   あの頃のセブン‐イレブンは、都会的なものの象徴だった。県で一番の繁華街にそれがなかったことは、13歳の私に何かを諦めさせたと同時に、都会への憧れをいっそう募らせることになった。「セブン‐イレブンのある街に、いつか住みたい」と思った。

   あれから10数年後、私は都会に住み、セブン‐イレブンはいつの間にか珍しくもなんともなくなり、オレンジと緑と赤の看板に憧れることもなくなった。

   25歳になったとき、セブン‐イレブンが石川県に初出店するというニュースを聞いた。得意のドミナント出店戦略で、隣近所の古いコンビニを次々と閉店に追い込んだという。もう、自分の生まれ育った田舎でセブン‐イレブンを見つけても、感激することはないだろう。

   それでもたまに、開店したてのピカピカしたセブン‐イレブンを見つけると、心が動いてしまう。「ああ、セブン‐イレブンがあった」とそれだけを思うのだ。

   当時、どこを探してもなかった都会の象徴、幻を追い求めたあの頃に、いつでも戻れるような気がするからかもしれない。(北条かや)

北条かや
北条かや(ほうじょう・かや)
1986年、金沢生まれ。京都大学大学院文学研究科修了。近著『インターネットで死ぬということ』ほか、『本当は結婚したくないのだ症候群』『整形した女は幸せになっているのか』『キャバ嬢の社会学』などがある。
【Twitter】@kaya_hojo
【ブログ】コスプレで女やってますけど
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