政府主導の「官製春闘」が始まって5年目を迎えたが、2018年春に賃上げを実施した企業は全体の82.2%にのぼることが東京商工リサーチの調査でわかった。賃上げの実施は、大企業が中小企業を2.8ポイント上回り、実施した企業のうち、7割で「従業員のモチベーションが上がった」など、賃上げの効果を実感した。
その一方、景気の先行き不透明感を背景に、賃上げを実施しなかった企業は全体の17.8%あった。賃上げができなかった企業は求人難に加え、退職が加速する可能性もあり、中長期的には業績への影響が危惧される。
大企業は新卒者の初任給を重視
賃上げ内容を詳しくみると、賃上げを実施した企業のうち最多は「定期昇給」の78.7%、次いで「ベースアップ」の43.8%、「賞与(一時金)の増額」の37.4%と続く。これらを実施した企業の割合(構成比)は、大企業と中小企業ではほとんど差がなかったが、「新卒者の初任給の増額」で、大きな差が出た。
大企業が25.8%、中小企業が15.2%と、両者の差は10.6ポイントに広がった。内部留保に余裕のある大企業はもともと賃金が高いうえ、人材確保のため初任給の賃上げに積極的に取り組んでいることがうかがえる。
具体的な賃上げ幅(月額)をみると、まず「定期昇給」では、最多は「5000円以上1万円未満」が21.3%、次いで「2000円以上3000円未満」が21.2%、「3000円以上4000円未満」が21.3%、「3000円以上4000円未満」が21.3%、「3000円以上4000円未満」が17.2%だった。
おもしろいことに構成比では、「5000円以上」は大企業が22.3%なのに対して、中小企業が28.2%と、5.9ポイントも上回った。これは「5000円以上」の回答で、もっとも多かった業種が「情報通信業」の44.0%で、中小企業(資本金1億円未満)が多いからとみられる。
この「上げ幅」における中小企業の健闘ぶりは、「ベースアップ」でもみられる。最多は「1000円以上2000円未満」が21.5%、次いで「5000円以上1万円未満」が20.4%、「2000円以上3000円未満」が16.5%と続く。このうち、ベースアップ額「5000円以上」の構成比をみると、大企業が19.7%なのに対して中小企業が36.7%と、なんと17.0ポイントも上回ったのだ。
「横並び」で消極的な大企業
中小企業は、全体としては賃上げを実施した企業の割合は大企業より少ないものの、多少でも余裕のあるところは、定期昇給だけでなく、ベースアップにも積極的で、深刻な人手不足の解消にむけて、必死に在籍者の離職防止(引きとめ)に動いたことがうかがえる。
賞与(一時金)の増額をみると、最多は「年間30万円未満」が67.1%で7割を占めた。次いで「30万円以上50万円未満」が18.8%、「50万円以上70万円未満」が6.5%と続く。「50万円以上」の構成比をみると、ここでも大企業が12.6%なのに対して中小企業が14.3%と、中小企業に積極果敢ぶりが表れている。
賃上げを実施した企業に理由を聞くと、もっとも多かったのが「従業員の引き留めのため」で50.8%だったが、大企業が42.2%に対して中小企業は52.1%と約10ポイント上回った。
こうしたことから、東京商工リサーチでは「中小企業ほど、人材流出を死活問題と受けとめ、賃上げに真剣に取り組む姿勢がうかびあがった。一方、大企業では賃上げの理由について、『同業他社の賃金動向を鑑みて』という回答が3割を超える(中小企業は3.0%)など、賃上げに余力がありながら消極的な姿勢が目立つ。賃上げは個人消費を盛り上げ、景気の好循環を実現して企業業績に好影響を与える基盤となる」と大企業の姿勢を批判している。