ドル円相場が膠着しています。2018年は年初こそ、トランプ発言をきっかけとした貿易問題を材料に、104.64円前後まで円高が進みましたが、「安値挑戦」に失敗して111円台まで押し戻され、最近は108~111円程度の3円ほどのレンジに収まっています。
このドル円相場、どう考えたらよいのでしょうか。
現状は「プラザ合意」前と同じ円安レベルにある
市場には円高派と円安派がいますが、どちらの主張もそれなりの説得力を持ち、なるほどと思います。まずは円高派の意見から見てみましょう。
まず、現状の円が割高か割安かと言えば、断然「割安」です。日本銀行は「実質実効為替レート」という数字を出しています。これは、米ドルといった特定の2国間通貨だけでなく、世界中のさまざまな通貨(現在はBIS公表のBroadベースで60か国)とのレートを貿易額などでウエイト付けし、インフレ率を考慮して算出したもので、客観的な「円」のレベルを示します。
この「実質実効為替レート」によると、現状の円レートは、1985年9月のプラザ合意(行き過ぎたドル高を是正するため、米国、英国、フランス、当時の西ドイツ、日本の5か国が外国為替市場に協調介入することで合意。その後、急激な円高に向かった)前の80程度の水準(2010年=100)の円安レベルにあります。
米国が「米為替報告書」で、円は25%割安と指摘したのは、こうした背景からです。25%割安であるならば、米国が考える適切なドル円レートがどこにあるかというと、80円台前半ということになります。
また現在、米国は世界中のあらゆる国に対して貿易戦争を仕掛けようとしていますが、我々にはどうしてもかつての日米貿易摩擦が想起されるので、「貿易問題=円高」というイメージになります。
ところが、現実の為替レートはなかなか円高には行きません。そこで円安派の主張を見てみましょう。
円安派の主張の根幹は、なんと言っても、日米の金融政策の方向性が違うということにあります。米国は今後も金融引締めに動きます。年内にあと数回引き締め、2019年には政策金利が3%を超えると想定されています。しかるに、日本経済の現状を見てみると、2%のインフレ目標は遥かに遠く、現状の金融政策がかなり先まで続くように見えます。
「実質実効為替レート」から、わかること
円安を背景に、目先の企業業績は悪くありませんが、企業の景況判断は日銀短観に見られるように、かなり慎重になってきています。2020年の東京オリンピック前の特需も、来年にはピークを迎え、しかも消費増税が予定されています。そうなると、引き締めと言うより、むしろ景気テコ入れ策が必要に見えてきます。
米国が大胆な法人減税を実現した影響も大きく、企業の直接投資が米国に流れているように見えます。日本企業によるM&Aも依然活発です。何か新規事業を行う場合、日本国内で行うのか、それとも国外かとなると、米国の低い法人税は圧倒的に魅力的です。
こうしてみると、絶対水準としての円はかなり安いのですが、経済の現実が円高への動きを阻止しているように見えます。今はこの微妙なバランスが釣り合って動かないのですが、ドル円のチャートをみてわかるように、大きな三角持ち合いになっており、これはどちらかに抜けると大きい動きになることを示唆しています。
常識的には円高方向へのブレイクが期待されるのですが、上昇する米金利、低い法人税、巨大な海外マーケット等を考慮すると、意外な円安の可能性もでてきているように思えます。そうなると実質実効為替レートで見て、かつてない円安、1ドル360円時代以上の円安レベルへと円は押し下げられることになります。
にわかには信じ難いですが、今年後半、そうした局面が現れるのかも知れません。(志摩力男)