「仕事よりプライベート優先」という若者が6割を超えたとの内閣府の調査結果が話題となっている(「2018年版 子供・若者白書」6月19日公表)。前回調査より10%増とのことなのでトレンド自体が変化したと言ってもいいだろう。
これをもって「若者の意識が変わった」と感じている人も多いだろうが、変わったのは彼らを取り巻く環境のほうだというのが筆者の見方だ。いい機会なのでまとめておこう。
変化したのは雇用を取り巻く環境
終身雇用や新卒一括採用に代表される「日本型雇用」はかなり特殊な雇用形態で、新人は具体的な業務内容や勤務地なども未定のまま一律の初任給で採用され、以後も会社都合による全国転勤や残業を一方的に受け入れねばならないなど、会社側の強い人事権が認められている。
要するに、圧倒的に「仕事>プライベート」が大前提となっているわけだ。
もちろんメリットもあり、定年までの安定した長期雇用が保証され、一律の初任給からスタートしても40歳以降は十分な出世、昇給が約束されることになっていた。だから、プライベートを犠牲にする価値は十分にあったわけだ。
だが、21世紀の現在はどうか――。厚生労働省の調査によれば、すでに大卒50代の過半数が非役職者であり、年功序列は形がい化してしまっている(賃金構造基本調査)。また、大手企業であっても、早期退職や追い出し部屋を使ったリストラは珍しくない光景となった。
ちょっと想像してみてほしい。あなたが今年の新人だったとして、入社してみれば、職場にバブル世代のオジサン平社員がたくさん飼い殺されていて、給与のベースアップもないから昇給も40過ぎで頭打ち状態。そんな状況で「幹部候補になりたかったら毎晩21時までは席にいろ。35歳までは地方支店まわって実績を積み上げろ」なんて上司に言われたらどう思うか。
「そこまでして会社のために働きたいとは思わない。自分のプライベートを大事にしたい」と考える人がほとんどではないか。変わったのは若手の意識というよりも環境であり、戦犯はモチベーションを惹きつけることのできなくなった人事制度というべきだろう。
滅私奉公から契約へ
実際問題として「仕事よりプライベート優先」という若手が過半数を超えてしまった以上、もはや「滅私奉公」を前提とする人事制度は維持できないと筆者はみている。では、これからの雇用はどのように変化していくのか。
紆余曲折はあるだろうが、最終的に滅私奉公という概念が消え、契約ベースの雇用関係に移行するというのが筆者の見方だ。そうなれば、あなたの勤務地はここ、担当業務はコレ、そしてそれに対する報酬はいくらと、従来は曖昧だった処遇がすべて契約で規定されて、それ以上のものが要求されることはない。各人は契約の範囲内ではプロフェッショナルとして職責を果たすが、それ以外でプライベートを犠牲にすることはない。
おそらく、今の若手社員が中堅になるころには、「仕事とプライベートどちらを優先しますか?」といった質問自体にあまり意味がなくなるだろう。
「どっちも大事に決まってるじゃないですか」と、普通に答える世代の登場を待ち遠しく感じるのは筆者だけだろうか。(城繁幸)