「優良地銀」の評価を得たいばかりに踏み外した道
では、ケース1と2の違いは何か。ケース1はプランAが「得るもの(手許に残るもの)」に視点をおいた表現。ケース2はプランAが「失うもの」を前面に出した表現でした。ここから分かる大きなポイントは、「失うもの」が正しく明示されると損失を回避するために大きな困難にも立ち向かっていくのです。しかし、それが「得るもの」によりぼかされてしまうと、「得るもの」に甘んじて誤った方向に進みかねないのです。
すなわち、変革期や低迷期に組織として判断を誤らないためのキーワードは、「失うもの」の正しい提示と周知です。トップが「得るもの」ばかりを意識させ「失うもの」を見誤らせると、組織は由々しき事態にも陥りかねないのです。
スルガ銀行のケースは、金融激変で「失うもの」をもっと前面に意識させなくてはいけない局面で、「優良地銀」としての評価という「得るもの」に気を取られた組織意識が、道を見誤らせてしまったと思えます。
企業経営において、どんな時も「明るいビジョン」を提示し社員に夢を持たせることは大切です。しかしこと変革期、低迷機においては「今ある危機」を包み隠すことなく正確に社員に提示し「失うもの」に向き合わせるというアプローチが、組織が方向感を誤ることなく危機を乗り切る原動力になると、「プロスペクト理論」は教えてくれています。(大関暁夫)