2018年6月10日からの第2週は、米朝首脳会談をはじめ、FRB(米連邦制度理事会)、ECB(欧州中央銀行)、BOJ(日本銀行)と3つの主要中央銀行の政策決定会合が開かれるという、歴史的な1週間でした。
そして、その中で最も市場インパクトがあったのはECB理事会でした。
急落のポイントは2つ
ECB理事会では、量的緩和政策を2018年10月以降150億ユーロに減額し年内(12月)に終了すること、そして2019年夏まで現行の政策金利を変更しないという新しい「フォワード・ガイダンス」が決まりました。
この決定を受けてユーロドルは、当初は「量的緩和政策終了」という点が注目されて発表前の1ユーロ1.1800ドル前後から1.1851ドルへと上昇しましたが、新しいフォワード・ガイダンスの意味に気付いたプレーヤーから次々とユーロドルを売り始め、結局その日の安値1.1564ドルへと、287ポイントもの急落となりました。
なぜ、この決定でここまで大きく動いたのか――。
理解できない人も多かったと思います。市場関係者の説明もポイントを付いているようには見えませんでした。
私が思うに、急落のポイントは2つあったと思います。
まず、発表前に市場がユーロドルロングだったことです。ECB政策決定の1週間ほど前に、多くの理事たちが発言しましたが、ドラギ総裁に近くハト派と目されるプラート専務理事が量的緩和政策の終了の議論を、ECB理事会で行うべきと発言したことが市場の雰囲気を変えました。
その後、ECB理事会まではどんなにユーロ売りと解釈できるニュースが発表されてもユーロドルは堅調に推移しました。また、こういったことは単なる憶測なので書くべきでもないでしょうが、何らかのインサイダー的情報も出回ったように聞こえてきました。次の理事会で量的緩和政策終了だと。
そして、本当に6月12日の理事会で量的緩和政策が終了されました。「やった!」と思ったプレーヤーも多かったでしょう。しかし、その政策決定には予期せぬ新しいフォワード・ガイダンスが付いていたのでした。
「見える未来は織り込んでいく」それがマーケット
来夏まで政策金利を変更しないというのは、市場の織り込み度(2019年6月における利上げ確率は60%ほどありました)よりもハト派的なものでした。多くの市場関係者は2019年10月のドラギ総裁の退任前までにECBは最低1回、もしくは2回程度利上げがあると想定していましたが、夏まで利上げしないとなると、ドラギ総裁の任期中はもう利上げの可能性は殆どないということになります。
市場はなんでも織り込んでしまおうとします。市場関係者の頭の中はもはや、2019年夏に飛んでいます。その頃までに米国は、少なくとも3、4回利上げしているでしょう。その一方でECBは利上げしない。そうであるなら、ユーロドルはどこまで下落すべきなのか?
市場の先読み、これが2つ目の理由でしょう。
これは、BREXIT(2016年6月23日、英国のEU離脱の是非を問う国民投票)のときにポンドが大きく売られたことに少し似ています。なぜBREXITで大きくポンドが売られたのか?
それは、英国がEUという巨大市場から閉め出され、多くの本部機能がロンドンから欧州大陸に移転し、金融センターであるロンドンもその機能を大きく失ったとき、英国雇用は大きく失われ成長率が下落。しかも経常赤字は国内総生産(GDP)の7%程度までに拡大すると見込まれました。
そのインパクトを補填するにはポンドは2~30%、もしくは40%程度下落しなければならないだろうと多くのエコノミストが試算しました。そして、そのすべてがBREXITの1日に集約されて起こったわけです。ポンド円はたった1日で27円下落しました。
しかし、BREXITは決まりましたが、英国はまだEU内にいます。本当に離脱するのは数年先ですが、ポンド下落による景気刺激を享受しています。当然、インフレ率も他の国より高くなりますから、当初は信じられないことでしたが、英中銀は利上げを検討しなくてはならなくなっています。
これは市場の織り込みが早すぎてしまった例ですが、織り込んでは揺り戻すのが市場です。
今後ユーロドルには下落圧力がかかり続けるとは思いますが、2019年夏まで欧州は現行の政策、米国は4回利上げすることを織り込んだ上での動きです。もし仮に米国の景気が思わしくなくなり、利上げが頓挫するようなことがあれば、当然ユーロドルには上昇圧力がかかるでしょう。
見える未来は織り込んでいく、それがマーケットの性質です。(志摩力男)