「見える未来は織り込んでいく」それがマーケット
来夏まで政策金利を変更しないというのは、市場の織り込み度(2019年6月における利上げ確率は60%ほどありました)よりもハト派的なものでした。多くの市場関係者は2019年10月のドラギ総裁の退任前までにECBは最低1回、もしくは2回程度利上げがあると想定していましたが、夏まで利上げしないとなると、ドラギ総裁の任期中はもう利上げの可能性は殆どないということになります。
市場はなんでも織り込んでしまおうとします。市場関係者の頭の中はもはや、2019年夏に飛んでいます。その頃までに米国は、少なくとも3、4回利上げしているでしょう。その一方でECBは利上げしない。そうであるなら、ユーロドルはどこまで下落すべきなのか?
市場の先読み、これが2つ目の理由でしょう。
これは、BREXIT(2016年6月23日、英国のEU離脱の是非を問う国民投票)のときにポンドが大きく売られたことに少し似ています。なぜBREXITで大きくポンドが売られたのか?
それは、英国がEUという巨大市場から閉め出され、多くの本部機能がロンドンから欧州大陸に移転し、金融センターであるロンドンもその機能を大きく失ったとき、英国雇用は大きく失われ成長率が下落。しかも経常赤字は国内総生産(GDP)の7%程度までに拡大すると見込まれました。
そのインパクトを補填するにはポンドは2~30%、もしくは40%程度下落しなければならないだろうと多くのエコノミストが試算しました。そして、そのすべてがBREXITの1日に集約されて起こったわけです。ポンド円はたった1日で27円下落しました。
しかし、BREXITは決まりましたが、英国はまだEU内にいます。本当に離脱するのは数年先ですが、ポンド下落による景気刺激を享受しています。当然、インフレ率も他の国より高くなりますから、当初は信じられないことでしたが、英中銀は利上げを検討しなくてはならなくなっています。
これは市場の織り込みが早すぎてしまった例ですが、織り込んでは揺り戻すのが市場です。
今後ユーロドルには下落圧力がかかり続けるとは思いますが、2019年夏まで欧州は現行の政策、米国は4回利上げすることを織り込んだ上での動きです。もし仮に米国の景気が思わしくなくなり、利上げが頓挫するようなことがあれば、当然ユーロドルには上昇圧力がかかるでしょう。
見える未来は織り込んでいく、それがマーケットの性質です。(志摩力男)