日本大学アメリカンフットボール部の悪質なタックル問題で、前監督の内田正人氏が2018年6月1日、日大の常務理事と理事を辞任した。
内田氏は「学内外に多大な迷惑をかけた」ことを辞任の理由にしている。
少しさかのぼって1月26日、松本文明内閣府副大臣が国会で飛ばしたヤジが「大変誤解を招く発言で、ご迷惑をかけた」として副大臣を辞任した。
松本氏は衆院本会議で沖縄の米軍機事故を取り上げた共産党の志位和夫委員長に対して「それで何人、死んだんだ」とヤジを飛ばし、「死者が出ていないから、いいだろうと言わんばかり」などと、批判されていた。
辞任の理由にならない!
僕はご両人の「迷惑をかけた」という辞任の理由がどうにも納得できない。これは辞任の本当の理由を隠し、自分の責任をできるだけ小さく見せよう、あるいは、ごまかしてしまおうという下心から出てきた言葉ではないのか。
内田氏は悪質タックルについて「自分の指示ではない」と言っている。とても信じられないが、もしこれを認めるとしても、同氏は悪質タックルを繰り返した選手を、その場では全く注意していない。もっと言えば、容認している。
したがって、内田氏は少なくとも辞任の理由として「悪質タックルを注意しなかった」ことを挙げるべきだろう。「迷惑をかけた」で済む話ではない。
松本氏の場合も同じである。周りが自分の発言を誤解しただけで、本人にはまるで責任がないような口ぶりだ。辞任するのなら、はっきりと「私のヤジは間違っていた」と認めるべきである。
森友・加計問題では、なかなか非を認めようとしない安倍晋三首相でさえ、松本氏の発言には驚いたようで、国会で謝罪している。松本発言もまた「迷惑をかけた」で終わる話ではない。
ここでは特には追及しないが、松本氏の「誤解を招く発言」というのも、ズルイ言い方である。「それで何人、死んだんだ」は、誤解のしようのない発言である。
「迷惑をかけた」で日中国交正常化交渉は一時難航
「迷惑をかけた」が国際的に物議をかもしたこともある。1972年9月25日に始まった日中国交正常化交渉の晩餐会でのことだ。
田中角栄首相が「過去に中国国民に多大なご迷惑をおかけしたことを深く反省します」と言ったところ、周恩来首相はその場では何も言わなかったが、翌日の首脳会談で抗議してきた。
「迷惑をかけた」はお詫びの言葉としては軽すぎるというのだ。この騒ぎはなんとか収まり、日中国交正常化も実現したが、「はた迷惑」な田中発言ではあった。
ちなみに、「迷惑をかけた」を通訳は「添了麻煩」(ティエンラ・マーファン)と訳したそうだ。ごく素直な訳だが、たとえば、道路に水をまいていたら、通りかかった女性のスカートに水がかかった。そんな時に使う表現である。当時、そのように解説されていた。
政治家にしろ、誰にしろ、責任を取ろうとの気持ちがあるなら、辞任の理由に軽々しく「迷惑をかけた」を使うべきではないのである。(岩城元)