「迷惑をかけた」で日中国交正常化交渉は一時難航
「迷惑をかけた」が国際的に物議をかもしたこともある。1972年9月25日に始まった日中国交正常化交渉の晩餐会でのことだ。
田中角栄首相が「過去に中国国民に多大なご迷惑をおかけしたことを深く反省します」と言ったところ、周恩来首相はその場では何も言わなかったが、翌日の首脳会談で抗議してきた。
「迷惑をかけた」はお詫びの言葉としては軽すぎるというのだ。この騒ぎはなんとか収まり、日中国交正常化も実現したが、「はた迷惑」な田中発言ではあった。
ちなみに、「迷惑をかけた」を通訳は「添了麻煩」(ティエンラ・マーファン)と訳したそうだ。ごく素直な訳だが、たとえば、道路に水をまいていたら、通りかかった女性のスカートに水がかかった。そんな時に使う表現である。当時、そのように解説されていた。
政治家にしろ、誰にしろ、責任を取ろうとの気持ちがあるなら、辞任の理由に軽々しく「迷惑をかけた」を使うべきではないのである。(岩城元)