大手企業に「この会社となら......」と思わせたベンチャー社長のひと言(大関暁夫)

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   ここ数年、オープンイノベーションの実現をめざして、企業同士の交流会を定期的に開催しています。

   オープンイノベーションとは、直訳すれば「開かれた技術革新」。一企業が自社内の技術やノウハウだけに頼ることなく広く異業種に協力を求めて、その組み合わせにより新たに革新的なビジネスモデルを生み出して、世に提供することを言います。

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ハードル高いベンチャーと大手企業のコラボ

   おしなべて閉鎖的と思われてきた大企業がその重たい協業の門戸を開いて、中小ベンチャー企業と積極的に組んで新しいビジネスを生みだすことが期待され、オープンイノベーションの活性化が叫ばれ、すでに数年が経ったでしょうか。

   我々の交流会にも、企業の大小を問わず毎回多くのイノベーターたちが集い、いくつもの新たなビジネスが生まれてもいるのですが、その大半はベンチャー同士による協業です。大企業は、姿勢こそオープンになったとはいえ、やはりその敷居は高い。そう実感せざるを得ないと思うことしきりであります。

   何度か大企業とのビジネス・コラボレーションにチャレンジした交流会のメンバーからも、「大企業の要求レベルはやはり高い」「大企業のおメガネに適うためには、技術力に加えて、信用力の向上も求められるような気がして道の険しさを実感している」など、悲観的な声が聞こえていました。

   そんな折も折、メンバーのITベンチャー企業S社から大手メディアB放送とのビジネス・コラボレーションが成立したとのご報告をいただき、さっそく交流会にご登壇いただき、そのコラボ成功のカギを探らせていただこうと、関係者を一堂に会して実施に向けた打ち合わせをしました。

   S社はIT系のコンテンツ制作を技術面から参画する企業で、あまり表立って名前を知られる存在ではなく、多くのビジネスでは縁の下の力持ち的な役割を果たしてきました。「ライバル企業も多い分野で、当社には突出した技術や特筆すべきセールスポイントがあるわけでもない」とは、今回のコラボレーションを担当したIさん。一体何が功を奏したのでしょう。

展示会での工夫

   そもそも、両社の出会いは東京ビッグサイトでの展示会でした。この会場でS社は、相互に技術面で被りのないIT系ベンチャー数社と共同でブース運営をしていました。数社分のセールスポイントを明確に見せるためには、そこそこのブースサイズになり、まずはそれが信用力を印象づける要因になったと、B放送の新規事業担当N部長が話してくれました。

   「展示会でブースサイズは結構重要です。もちろんどんな小さな会社でも、我々が組みたいと思えばそれはありなのですが、展示会はとにかく広くて出店企業も多い。とてもとてもすべては見て回れないので、勢い程度のサイズで目に付くブースを優先的にピックアップせざるを得なくなるのです。S社のブースが、じつは他社との共同ブースだと知ったのは、展示会終了後でした。ビジネスでつながりのあるベンチャー同士が共同でブースを出すというのは、なかなか上手なやり方だと感心させられました」

   なるほど、どんなにいい技術やノウハウを持っていたとしても、ブースに立ち寄ってもらえなければ、そもそも出会いのチャンスがないわけです。展示会で大手企業の目を引くために、複数ベンチャーが共同である程度のサイズのブースを出すというのは、確かに効果が見込めるちょっとした工夫かもしれません。

出会いから、わずか3か月で協業ビジネスに進展

   さて、最大のポイントとなる「突出した技術や特筆すべきセールスポイントがあるわけでもない」S社を、B放送が協業相手として選んだ理由、それは何だったのか――。B放送N部長が核心部分をたずねてみます。

「我々が技術面などから関心があるブース訪問時にもっとも重視することは、じつは技術やノウハウの中身ではありません。むしろブース運営責任者と話をして、我々が組む相手としてふさわしいか否か。そのやりとりの中で、ある程度の判断をつけることなのです。S社の場合は、たまたま社長がブースにいらして、直接お話をすることができました。社長の話を聞いて、『この会社となら、ぜひご一緒したい』、私は瞬時に思いました」

   社会的な影響力もある大手放送局をして『ぜひご一緒したい』、そう思わせた社長の話とは、いったい何だったのか、N部長が続けます。

「社長が強調されたのが、『とにかくどんな形であれ、中小企業が成長するお手伝いをしたい』というその起業家精神でした。放送メディアは一般にマスコミと言われるように、マスすなわち広く大衆を対象としてビジネス展開をしてきたのですが、マスもまた元を正せば地域で生きる個々の企業や個人の集合体です。我々も新規事業への取り組みに際しては、原点を見つめ直す必要性を感じていたので、社長の言葉は深く突き刺さったのです」

   この日をスタートに話はトントン拍子に進んで、出会いから約3か月で両社の協業ビジネスは形になりました。大手企業のベンチャーとのビジネス・コラボレーションでは異例の早さと言えるでしょう。「考え方で共鳴できれば、社内の説得も容易」とB部長は言います。

   難しい難しいとばかり思っていた大手企業とベンチャー起業が組むオープンイノベーション成功のポイントは、じつは技術やノウハウの高さや希少性ではなく、企業マインドや経営姿勢にこそあったのだという意外なお話に、素晴らしいヒントをいただきました。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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