出会いから、わずか3か月で協業ビジネスに進展
さて、最大のポイントとなる「突出した技術や特筆すべきセールスポイントがあるわけでもない」S社を、B放送が協業相手として選んだ理由、それは何だったのか――。B放送N部長が核心部分をたずねてみます。
「我々が技術面などから関心があるブース訪問時にもっとも重視することは、じつは技術やノウハウの中身ではありません。むしろブース運営責任者と話をして、我々が組む相手としてふさわしいか否か。そのやりとりの中で、ある程度の判断をつけることなのです。S社の場合は、たまたま社長がブースにいらして、直接お話をすることができました。社長の話を聞いて、『この会社となら、ぜひご一緒したい』、私は瞬時に思いました」
社会的な影響力もある大手放送局をして『ぜひご一緒したい』、そう思わせた社長の話とは、いったい何だったのか、N部長が続けます。
「社長が強調されたのが、『とにかくどんな形であれ、中小企業が成長するお手伝いをしたい』というその起業家精神でした。放送メディアは一般にマスコミと言われるように、マスすなわち広く大衆を対象としてビジネス展開をしてきたのですが、マスもまた元を正せば地域で生きる個々の企業や個人の集合体です。我々も新規事業への取り組みに際しては、原点を見つめ直す必要性を感じていたので、社長の言葉は深く突き刺さったのです」
この日をスタートに話はトントン拍子に進んで、出会いから約3か月で両社の協業ビジネスは形になりました。大手企業のベンチャーとのビジネス・コラボレーションでは異例の早さと言えるでしょう。「考え方で共鳴できれば、社内の説得も容易」とB部長は言います。
難しい難しいとばかり思っていた大手企業とベンチャー起業が組むオープンイノベーション成功のポイントは、じつは技術やノウハウの高さや希少性ではなく、企業マインドや経営姿勢にこそあったのだという意外なお話に、素晴らしいヒントをいただきました。(大関暁夫)