計数を追い続けてきた吉田社長の思い
現段階で吉田社長は多くを語ってはいませんが、K社長が言うオリジナリティあふれるソニーの復活が「無目標計画」の狙いであるということは、かなり的を射た見方なのではないかと思われます。
成長期を過ぎて安定期あるいは停滞期に入った企業が、計数目標の達成と次の成長の種育成を両立させることはかなり難しい経営課題でもあります。ソニーの場合は、今世紀入り前後からの長期低迷状況脱却に苦しみ続け、ようやくトンネルの出口が見えたここで、計数目標にとらわれない企業風土を取り戻したい、計数を追いかけ続けてきた吉田社長だからこそ、そんな思いにかられているのではないかと思えるのです。
3年ほど前のことです。IT機器向けの電子部品開発製造業のB社が、その製品開発力と財務内容の良好さを評価され、周囲から持ち上げられる形で、株式の上場に向け本格検討をはじめました。
40代の創業社長T氏は、上場で市場から多額の資金を引っ張り技術開発に一層の拍車を掛け、かつ上場を機に社員たちへの還元も同時にしたい、と株式上場のメリットを捉えていました。
しかし、いざ上場準備に入ってみると、思惑とは違う展開が待っていました。最大の読み違いは、物言うベンチャーキャピタル(VC)の存在でした。資本政策の一環でVCから出資を受けると同時に役員も受け入れることとなり、創業以来初めて、見知らぬ他人が取締役会に顔を連ねることになりました。
それにより、これまで形式的に、ほとんど社長の一存ですべての運営を動かしてきた取締役会などの流れが一変。VC出身の役員は毎月会議に出ては、物言う株主として上場に向けた計数管理を口うるさく言うようになったのです。