きっかけは「お酒好き」の東北大教授のアイデアだった
その中でも中心的な役割を果たしたのが、「雄勝の濡れ盃」の販売と盃のデザイン、原材料の雄勝石の調達などを担当した「こけしのしまぬき」の島貫昭彦社長だ。J‐CASTニュース会社ウォッチ編集部は、島貫社長に話を聞いた。
――「濡れ盃」の名前は変わっていますね。どのような経緯があるのですか。
島貫さん「(盃に水を注いで見せながら)昔から硯に使っていたくらいですから保湿性に優れ、お酒(水)を入れると石の肌の色が、濃いグレーから黒く変わるのです。ほら、盃がぬめっとしてきて酒が美味しく見えるでしょう」
――平らに割れやすい雄勝石を、丸くて薄い盃に削り出すというアイデアは、どこから浮かんだのでしょう。
島貫さん「東北大学の堀切川一男先生が参画してくれたのが大きいです。雄勝石は硯だけでなく、ペーパーウエイトなど、四角く削り出す工芸品も作っています。それを見て、お酒が好きな先生が『丸い盃も削り出すことができるのではないか』と思いついたのです。そこで、先生に指導していただき、金属加工の精密技術に秀でたキョーユーに、盃の削り出しを依頼しました」
――パリッと割れたりしなかったのですか。
島貫さん「キョーユーは、ハイテク技術を使った金属の超精密加工が専門で、初めて雄勝石に挑戦したのですが、驚くほど見事に丸い盃を削り出しました。滑らかすぎて、石の製品には見えず、木製品に見えるほどです。そこで、第2弾として今年(2018年)3月に四角形の盃『角盃(かくはい)』を作りました。こちらは平らに割れる性質を利用していますから、見た目が石らしい出来上がりです。一つひとつの石によって割れ方が違うため、世界にひとつだけの盃を持つことができます」
――盃を持つと、確かにずっしりとした重量感がありますね。ところで、いくらで、年間どのくらい売れているのですか。
島貫さん「第1弾の平盃が10万8000円、ぐい呑みが4万3200円、第2弾の角盃は2種類あり、4万3200円と5万4000円(いずれも税込)です。ギフトとして買われるお客様が多いですが、受注生産ですから年間数十個くらいです。ただ、硯の需要自体が年々減っているし、雄勝町の硯職人の数も少なくなっています。雄勝石でこれだけの加工ができるのだから、盃を作りあげた技術で食器を作るなど、いろいろな新商品の開発に応用できるでしょう。雄勝町の職人に技術を広め、復興の支援につなげたいと考えています」