静かに続く風評被害
では、オリジナル情報を切り貼りした情報は「間違った」情報なのでしょうか? おそらくそうではない、と私は思います。自分の言ったつもりのことと人が解釈したことは、異なるのが当然だからです。
そうではなく、切り取られた時点で、その情報がオリジナルの発信者の持ち物ではなくなった、というだけのことなのではないでしょうか。
情報をコピペする時、人は自分の意見をつくっている、という意識すらないかもしれません。しかし、情報の切り貼りは、あくまで誰かの意見を用いて「自分の意見」を補強する行為です。ある情報を「理解」「共感」というハサミで切り取った瞬間、その情報にまつわる社会責任もまた、ハサミの持ち手にコピペされている、ということは認識されるべきだと思います。
【理解の社会責任】
著名な方がガンで亡くなるたび、必ずと言っていいほど
「××は福島県産品を食べて応援したからガンになった」
という心ない情報がSNSで拡散していることはご存知でしょうか。災害から7年が経った今も、風評被害は静かに続いています。
「食べて応援」というニュースと、ガンというニュースを切り取って貼り付けるだけ。積極的な嘘をつくことすらなく、風評は簡単につくることができます。その情報は、さらに手軽なコピーやリツイートによって拡散してしまうのです。そして、どんなに情報が拡散しても、その情報が個人を傷つける力は薄まることはありません。
私たちは、クリック一つで知らない人をも傷つけることができる、操作容易な凶器を手にしています。それが凶器であることを皆が自覚し、情報を理解する主体としての責任感を持たない限り、悪意不在の風評被害はなくなることはない、と思います。
理解と共感には自己責任だけでなく社会的責任も伴う、ということ。それは日々大量の情報に触れるようになった私たちが、新たに共有すべき社会通念なのではないでしょうか。
(越智小枝)
地球温暖化対策への羅針盤となり、人と自然の調和が取れた環境社会づくりに貢献することを目指す。理事長は、小谷勝彦氏。