【IEEIだより】福島レポート 悪意なき情報の「コピペ」に辟易 そこに「自分の意見」はない(越智小枝)

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静かに続く風評被害

   では、オリジナル情報を切り貼りした情報は「間違った」情報なのでしょうか? おそらくそうではない、と私は思います。自分の言ったつもりのことと人が解釈したことは、異なるのが当然だからです。

そうではなく、切り取られた時点で、その情報がオリジナルの発信者の持ち物ではなくなった、というだけのことなのではないでしょうか。

   情報をコピペする時、人は自分の意見をつくっている、という意識すらないかもしれません。しかし、情報の切り貼りは、あくまで誰かの意見を用いて「自分の意見」を補強する行為です。ある情報を「理解」「共感」というハサミで切り取った瞬間、その情報にまつわる社会責任もまた、ハサミの持ち手にコピペされている、ということは認識されるべきだと思います。

【理解の社会責任】

   著名な方がガンで亡くなるたび、必ずと言っていいほど

「××は福島県産品を食べて応援したからガンになった」

という心ない情報がSNSで拡散していることはご存知でしょうか。災害から7年が経った今も、風評被害は静かに続いています。

   「食べて応援」というニュースと、ガンというニュースを切り取って貼り付けるだけ。積極的な嘘をつくことすらなく、風評は簡単につくることができます。その情報は、さらに手軽なコピーやリツイートによって拡散してしまうのです。そして、どんなに情報が拡散しても、その情報が個人を傷つける力は薄まることはありません。

   私たちは、クリック一つで知らない人をも傷つけることができる、操作容易な凶器を手にしています。それが凶器であることを皆が自覚し、情報を理解する主体としての責任感を持たない限り、悪意不在の風評被害はなくなることはない、と思います。

   理解と共感には自己責任だけでなく社会的責任も伴う、ということ。それは日々大量の情報に触れるようになった私たちが、新たに共有すべき社会通念なのではないでしょうか。

(越智小枝)

越智 小枝(おち・さえ)
1999年、東京医科歯科大学医学部卒。東京医科歯科大学膠原病・リウマチ内科。東京都立墨東病院での臨床経験を通じて公衆衛生に興味を持ち、2011年10月よりインペリアルカレッジ・ロンドン公衆衛生大学院に進学。留学決定直後に東京で東日本大震災を経験したことで災害公衆衛生に興味を持ち、相馬市の仮設健診などの活動を手伝いつつ世界保健機関(WHO)や英国のPublic Health Englandで研修を積んだ。2013年11月より相馬中央病院勤務。2017年4月より相馬中央病院非常勤医を勤めつつ東京慈恵会医科大学に勤務。
国際環境経済研究所(IEEI)http://ieei.or.jp/
2011年設立。人類共通の課題である環境と経済の両立に同じ思いを持つ幅広い分野の人たちが集まり、インターネットやイベント、地域での学校教育活動などを通じて情報を発信することや、国内外の政策などへの意見集約や提言を行うほか、自治体への協力、ひいては途上国など海外への技術移転などにも寄与する。
地球温暖化対策への羅針盤となり、人と自然の調和が取れた環境社会づくりに貢献することを目指す。理事長は、小谷勝彦氏。
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