2018年の年明けから、新たな消費関連統計が加わったことをご存じだろうか。総務省が1月分から消費動向指数(CTI)の発表をはじめた。
じつは、このCTIはまだ、「家計調査の結果を補完し、消費全般の動向を捉える分析用のデータとして、総務省統計局が開発中の参考指標」(総務省)という位置付け。しかし、その内容は、家計消費指数を吸収するとともに、単身世帯を含む当月の世帯の平均的な消費、家計最終消費支出の総額の動向を推計している。
つまり、将来の消費指標の「エース候補」なのだ。
増える単身世帯にマッチしたCTI
CTIにはいくつかの大きな特徴がある。まずは、CTIには世帯消費動向指数(CTIミクロ)と総消費動向指数(CTIマクロ)の2つの指標がある点だ。
CTIミクロは2015年を基準年とし、世帯の消費支出の平均月額を100とする指数。毎月の家計調査の結果に、家計消費状況調査および家計消費単身モニター調査の結果を合成した支出金額によって構成されている。
これまでの家計調査は、月次データで補足できるのは二人以上の世帯のみ。単身世帯と単身世帯を含む総世帯ベースでの消費データは四半期ごとの公表となっている。しかし、少子高齢化の影響から単身世帯の比率が増加している。
そこで、家計調査で新たに単身世帯の月次調査を開始することになったが、家計調査は、二人以上の世帯でも約8000世帯とサンプル数が少ない。そこで、CTIミクロでは、家計調査の単身世帯調査に加えて、家計消費単身モニター調査の結果も利用することで単身世帯をカバーすることとなった。
もう一つ、CTIマクロは日本の世帯全体の消費支出総額の推移を推測する指数で、GDP統計の家計最終消費支出にあたる。2015年を基準年とし、消費支出総額の平均月額を100とする指数。これまでは、日本の家計全体をマクロで見た場合の消費動向は、GDP統計の家計最終消費支出を使ったが、GDPは四半期の統計であり、月次ベースでの動きを追うことができなかった。
CTIマクロによって、月次ベースでの動きを見ることが可能となる。
悲願! 物価上昇率「2%目標」達成までの「距離」は?
さて、このようにCTIは、やがては家計消費を代表する指標となっていく。この新たな指標の誕生に、もっとも関心を示したのは、日本銀行だ。
日銀といえば、2013年3月に黒田東彦総裁が誕生し、「消費者物価指数の上昇率2%達成」を掲げ、自らが「異次元緩和」と呼んだ未曽有の金融緩和政策を開始した。
だが、日銀総裁の任期5年中には、消費者物価上昇率の2%目標を達成することはなかった。
2018年4月、黒田総裁は再任されたわけだが、「消費者物価の上昇率2%」という錦の御旗は降ろしていない。したがって、日銀にとって消費指標は最大の関心事でもあるわけだ。
ある日銀幹部は、「CTIによって、消費動向がより正確に、詳細にわかるようになることは、金融政策にとっても重要なこと」と、歓迎の意を示している。
では、参考指標ながら、この1月から公表されたCTIの結果はどうだったのか――。3月9日に公表されたCTIミクロである1月の世帯消費動向指数(総世帯)は 2015年を100として名目では97.8、実質では96.1だった。前年同月比は名目で1.0%の増加、実質では0.7%の減少。前月比(季節調整値)では、名目で2.4%の増加、実質で1.9%の増加だった。
さらに、4月6日に発表された2月の世帯消費動向指数(総世帯)は名目で89.1、実質で87.6となり、1月よりも低下した。前年同月比では名目が0.3%の増加、実質が1.5%の減少。前月比(季節調整値)では、名目で3.2%の減少、実質で3.5%の減少と大きく落ち込んだ。
今のところ、日銀にとってCTIは「死に馬に鍼指す」ようなものでしかないようだ。
(鷲尾香一)