プロがやりたい放題!? 上げては下げての「荒稼ぎ」の仮想通貨市場の現状(小田切尚登)

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狙われる取引量の少ない仮想通貨

   フロントランニングの問題もある。フロントランニングとは、仲介業者が顧客からの注文を受けたあと、顧客の注文の前に自分の注文を先に出す行為。これについては取引の詳細がすべて記録されるブロックチェーンを使う仮想通貨では不可能だという説があるが、実際にはいろんな抜け道がある。

   そして有名なのがpump and dump(ポンプ&ダンプ)という手法だ。これは資産価格を急激に買って上げて(ポンプ)、次にそれを売って下げて(ダンプ)儲けを得ようとする行為。投資家は価格が上がっていくのをみて、買いに来る。しかし仕掛け人が売り出すと、価格は一気に下がる。取引のボリュームが少ない仮想通貨を中心に数多くおこなわれている。

   最大手の仮想通貨取引所の一つであるBITTREX(ビットトレックス)で、実際に行われたケースを紹介しよう(主導者はビットトレックスではない)。以下のようなチャットのメッセージが流れた(原文は英語)。

10:00 「次のBITTREXのポンプまであと2時間です、準備しておいてください。友達にも広めてね。参加者が増えれば=ポンプでもっと上がり=もっと儲かるのです」
11:40 「Bittrex.comの次のポンプまであと20分ですよ」
11:55 「あと5分です。準備OK?」「 通貨はSaluS (SLS=サラス、仮想通貨の一つ)、取引所はBITTREXに決定」

   これが功を奏して「ポンプ」の当初に11.61ドルだったSLSは、ピークで110ドルまで上がり、その後「ダンプ」されて14.9ドルに戻った。目論見どおり、上下したというわけだ。おそらくは、これに乗せられて損失を被った投資家も多いはずである。

   現行のシステムはこのように、一部の市場参加者が相場を左右できるような余地を残している。プロの多くはこのようなおいしい状態が続くことを望んでいると思うべきである。取引のボリュームが増えたり、先物市場が充実したりすることは、市場がより効率化して彼らの裁量の余地を狭めることになる。まずい事態ということだ。

   2017年12月にビットコインがシカゴの2大先物取引所に上場されたとたんに相場が下がったのはそのためだと思われる。

   プロが好きなように操れる余地のある市場に素人が手を出すべきか――。私にはとてもそうは思えない。仮想通貨市場を貶めようというつもりはまったくないが、もしも参加したいのならば、少なくともここに書かれたくらいのことは知っていてほしいと思う。(小田切尚登)

小田切 尚登(おだぎり・なおと)
小田切 尚登(おだぎり・なおと)
経済アナリスト
東京大学法学部卒業。バンク・オブ・アメリカ、BNPパリバなど大手外資系金融機関4社で勤務した後に独立。現在、明治大学大学院兼任講師(担当は金融論とコミュニケーション)。ハーン銀行(モンゴル)独立取締役。経済誌に定期的に寄稿するほか、CNBCやBloombergTVなどの海外メディアへの出演も多数。音楽スペースのシンフォニー・サロン(門前仲町)を主宰し、ピアニストとしても活躍する。1957年生まれ。
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