日本郵政が、正規雇用と非正規雇用の格差是正のため、正社員の手当の一部を削減するという件が話題になっている。
【参考】正社員の待遇下げ、格差是正 日本郵政が異例の手当廃止
「下に合わせて引き下げるのではなく上に合わせて引き上げろ」という声が多く寄せられる一方、「人件費は一定なのだから誰かを賃上げするために誰かの賃下げが不可欠だ」と擁護する意見も散見される。
ちなみに、筆者はどちらの意見とも少し違う見方をしている。いい機会なのでまとめておこう。
給料は業務内容に応じて支払われるべき
まず、全員の処遇を上に合わせて引き上げるというのは現実的には不可能だ。常に言っているように、人件費の総額は事業環境により決まってしまうので、法律で上下に動かす余地はほぼないためだ。
そういう意味では、格差是正のためにどこかを削るしかないというのは正しいが、それは単純に賃下げすればいいというものでもない。
「手当」というのは、本来は仕事の中身や成果とは全然関係ないもので、前世紀の労使協調路線の中で、生活給の一つとして生み出されたものだ。
たとえば、会社の近くに住んでいる人より遠くからはるばる通ってくる人にわざわざ高い通勤手当を払う理由があるだろうか。住宅事情や家族構成なんてプライヴェートな部分で線引きし、一部の従業員にだけ住宅手当を支給する意義とはなんだろうか。
筆者はすべての手当を廃止したうえで、各人が担当する業務内容に応じて給料として支給するのが筋だと考える。手当も含めた人件費というのは偉い人のポケットマネーなどではなく、突き詰めれば従業員自身が稼ぎ出しているのだから、それが最も合理的かつ公平だろう。
手当廃止は「合理的なシステムへのバージョンアップ」
もう一つ、そういう「実際の業務内容に応じた給料」には大きな可能性がある。以前も述べたとおり、「同一労働同一賃金」の実現には、正社員の年功給を廃止したうえで、業務内容に応じて決まる職務給に一本化する以外に道はない。
そういう意味では、手当の廃止というのは、正社員という身分に紐づけられた生活給から、雇用形態に関わりなく、誰もが果たす役割に応じた処遇を受けられる同一労働同一賃金への最初の一歩ということになる。
単純な正社員の賃下げというわけではなく、基準をそろえる中で貰いすぎの人は下がるし、逆に正社員の中でも上がる人もいるだろう。
ちなみに、政府の作成した同一労働同一賃金ガイドライン案をみると、「雇用形態を理由に手当ての支給に格差をもうけること」に対して、やたらと厳しい姿勢であることがうかがえる。
それを見越して(将来的にもめ事にならないよう)今後も大企業を中心に諸手当の廃止に踏み切る企業が出てくるだろうが、それは必ずしも「下方向へに切り下げ」や「平等に貧しくなる道」などではなく、より新しく合理的なシステムへのバージョンアップくらいにとらえてほしい、というのが筆者のスタンスだ。(城繁幸)