いわゆる年度が改まり、また今年もフレッシュな若者たちを街で見かける季節になりました。この新しい季節を、二つの観点から眺めてみました。
東日本で携帯電話大手キャリアの販売店網を展開するT社。2018年3月にうかがった際に、「当社は今年から、正式な入社式を行うことにしました」と、M社長が話していました。
社会人デビューを、企業も家族と共に祝う
「当社は3月中に研修がスタートすることから、これまでうちの入社セレモニーは研修初日に10人ほどの新入社員を前に、私がひと言話をして、辞令を交付するという簡単なものでした。しかし、働き方改革が世間で注視されているなか、うちは大企業ではないですが大企業の看板を借りて代理店として業務をしていますから、やはりこれを重く受け止め、我々なりにできることを考える必要があるのではないかと思いました」
聞けば、今年からは研修が3月中に始まって、もう4月1日は新年度初日というのです。社会人として第一歩を踏み出す、ひとつの大きな節目としてしっかり意識させつつ、一緒にお祝いをしてあげようと思ったのだと。
そこで、入社式は来賓を呼び、幹部社員も同席させて、社長の他に来賓、人事部長からも祝辞をもらうというやり方に変えたそうです。さらに、当日は式後の新入社員には記念のお菓子を持たせ、社会に正式に踏み出した日を家族で一緒に祝いましょうという思いを、具体的な行動で示したのだと言います。
「世に言う人手不足はうちの業界も直撃です。よくよく考えてみると、携帯電話はここ数年生き馬の目を抜くような展開の速さがあり、業務の忙しさにかまけて、ついつい社員の扱いが疎かになっていたのではないかと、反省させられる点も多かった。言ってみれば、人手不足、採用難はある意味、経営者の自業自得な部分もあるのではないかと。そんな自戒の念から、本当の家族以上に多くの時間を一緒に過ごす会社が、社員の節目節目を大切にしてあげなくていけない、そう思ったわけです」
朝の通勤電車を「変えた」真新しいスーツ姿
なるほど、経営者として社員を大切にすることを再認識し、単なる雇用関係を超えた、家族として喜ばしい出来事を共有しようというM社長の考え方が奮っています。
社員の定着率向上も結局のところ、経営者である社長の社員を大切に思う気持ちが伝わるか否かで随分と違ってくるように思います。新社会人の門出の日に、社長の思いをしっかりと受け取った今年のフレッシュマンたちは、きっとこの先長く会社になくてはならない存在として活躍してくれるのではないでしょうか。
フレッシャーズを迎える季節に、もうひとつ思ったこと。それはいつものように朝の通勤時間帯に電車に乗った時のことでした。
私は勤め人ではないので、毎日決まった時間に電車に乗るわけではないのですが、4月はじめのその日は、いつものように満員の車内に乗り込むと、すぐさまどこかいつもと違う雰囲気を感じ取りました。
車内は通勤通学の人たちでビッシリ。よく見ると、その人ごみの中に真新しいスーツの新社会人らしき若者がポツリ、ポツリと。加えて新しい顔見知り同士で少し遠慮がちに、でもどことなく楽しげに話をする大学フレッシャーたちも。いつもと違うムードは、明らかに彼らが醸し出しているのだと、わかりました。
何が違うのかといえば、彼らは声にこそ出さないものの「がんばるぞ!」とか、「これからどんな毎日が待っているのだろう。楽しみだ」と言ったような雰囲気が伝わってくる感じがすること。いつもはビジネスマンたちの疲労やため息ばかりを乗せ重たい空気で走っている通勤電車が、嫌なものを感じさせない、なんとも不思議な気持ちにさせられたのです。
大事なのは、リフレッシュ感を共有すること
人間誰しも新しい環境に飛び込んでいく時には、知らず知らずのうちに前向きな期待感オーラのようなものが出ているように思います。そして、それは周囲にも伝わって、明るく前向きなムードが自然と伝播し、確実にプラスの効果があるように思えるのです。
電車内の行きずりですら感じられる一種の爽快感。組織の中なら、それはもっと効果が大きいのではないでしょうか。思い起こせば銀行時代、毎年新人が入ってくる営業現場と、ほとんどそれがない本部とでは、この季節のリフレッシュ度は雲泥の差であったことを思い出しました。
中小企業の新人採用が難しいことは百も承知ではありますが、やはり毎年この季節にはたとえ中途採用であっても、外から新しい風を取り込んで、年に一度のリフレッシュ感を共有したいものだなと、新たな気持ちで新年度をスタートさせる大切さを改めて感じました。
採用、配置替え、組織変更...... 自然界も新芽を吹いて、我々に爽快感を与えてくれるこの季節にこそ、組織内に新しい刺激がなにがしか必要だと改めて思います。
企業によっては4月が新年度入りではない企業も多々あるかとは思いますが、世の流れや自然界の摂理というものを、企業経営に活かすのも経営者の大切な手腕ではないかと思う次第です。
(大関暁夫)