国の「実験」のために個人財産を使う メガバンクも呆れる休眠預金の「筋悪」(鷲尾香一)

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   2017年12月9日に「民間公益活動を促進するための休眠預金等に係る資金の活用に関する法律」(休眠預金活用法)が公布され、18年2月9日、政府は休眠預金にかかわる資金活用の基本方針(案)を公表した。

   ところが、その内容はあまりに矛盾点が多く、そのうえ休眠預金を活用する「隠された目的」には驚かされた。

  • 休眠預金の活用法、具体的な施策はグニャグニャだ
    休眠預金の活用法、具体的な施策はグニャグニャだ
  • 休眠預金の活用法、具体的な施策はグニャグニャだ

公的制度の「狭間」に位置するような取り組みって、なんだ!?

   まず、基本方針では、休眠預金などを活用する目的として、「国及び地方公共団体が対応することが困難な社会の諸課題の解決を図ること」としている。

   これに対して、休眠預金を国に拠出する当事者であるメガバンク幹部は、「活用法はまだまだ骨格が固まっただけで、具体的な施策部分はグニャグニャの状態」と指摘する。

   たとえば目的について、その幹部は「果たして、国や地方公共団体が対応することが困難な問題に対して、民間団体が法律や行政のサポートもなしに解決することができるだろうか」と、疑問を投げかける。

   そのうえで基本方針は、「成果を収めることにより国民一般の利益の一層の増進に資することになるもの(民間公益活動)を促進するために活用する」とし、「この制度では、公的制度のいわゆる「狭間」に位置するような取り組みや革新性が高いと認められる民間公益活動を行う団体などへの支援を重視する」としている。

   「『狭間』に位置するような取り組みが、果たして国民一般の利益の一層の増進に資するものなのだろうか」(メガバンク幹部)と手厳しい。

休眠預金の資金は「開業資金」のようなもの

   基本方針では、「狭間」について「これまでの既存制度において対象とされてこなかった人々が抱える課題に焦点を当て、前例のない取り組みや公的制度のいわゆる「狭間」に位置するような取り組み、社会の諸課題と一般に認識されていないために対応が遅れている分野」と説明されているのだが、「これこそ、行政の怠慢で見落とされていたものか、あるいは省庁間の利害がぶつかるため、手をこまねいていたもの。民間団体が対応しようとしても、既存の法律や条例、省庁の監督や規制が障壁となる可能性が高いものではないか」と、前出のメガバンクの幹部は指摘する。

   さらに民間団体に対しては、「民間公益活動の自立した担い手を育成するため、民間公益活動を行う団体との間で達成すべき成果と支援の出口について事前に合意したうえで、一定の期間を区切った支援を行うこととし、休眠預金等に係る資金に依存した団体を生まないための仕組みを構築する」という。

   つまり、休眠預金などに係る資金というのは、「『開業資金』のようなものであり、その後は自ら資金調達を行い、事業を継続することを前提としている。本来は、行政が対応すべき課題に対して、休眠預金という個人の財産を投入することで、行政コストを削減しつつ、民間団体に責任だけを押し付ける仕組みづくり」と解説するのだ。

   そして驚くことに、この基本方針の終わりには、「休眠預金活用法は、衆参両院において施行から5年後に、幅広く見直しを行うことという附帯決議がなされている」としたうえで、「本制度は我が国では前例のない、いわゆる『社会実験』である」と書かれているのだ。

   メガバンク幹部は、「社会実験を国の責任で、国の予算を使わずに、休眠預金という個人の財産を使って行うというのは、本当に最悪の活用方法としか言いようがない」と、吐き捨てる。

   実験が失敗すれば、失われるのは個人の財産であり、国の財政は痛まない。「こんな仕組みづくりのために、民間金融機関は巨額のシステム投資を行わなければならないなんて、本当に『筋悪』としか言いようがない」と、憤懣やるかたない。(鷲尾香一)

鷲尾香一(わしお・きょういち)
鷲尾香一(わしお・こういち)
経済ジャーナリスト
元ロイター通信編集委員。外国為替、債券、短期金融、株式の各市場を担当後、財務省、経済産業省、国土交通省、金融庁、検察庁、日本銀行、東京証券取引所などを担当。マクロ経済政策から企業ニュース、政治問題から社会問題まで、さまざまな分野で取材。執筆活動を行っている。
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