休眠預金の資金は「開業資金」のようなもの
基本方針では、「狭間」について「これまでの既存制度において対象とされてこなかった人々が抱える課題に焦点を当て、前例のない取り組みや公的制度のいわゆる「狭間」に位置するような取り組み、社会の諸課題と一般に認識されていないために対応が遅れている分野」と説明されているのだが、「これこそ、行政の怠慢で見落とされていたものか、あるいは省庁間の利害がぶつかるため、手をこまねいていたもの。民間団体が対応しようとしても、既存の法律や条例、省庁の監督や規制が障壁となる可能性が高いものではないか」と、前出のメガバンクの幹部は指摘する。
さらに民間団体に対しては、「民間公益活動の自立した担い手を育成するため、民間公益活動を行う団体との間で達成すべき成果と支援の出口について事前に合意したうえで、一定の期間を区切った支援を行うこととし、休眠預金等に係る資金に依存した団体を生まないための仕組みを構築する」という。
つまり、休眠預金などに係る資金というのは、「『開業資金』のようなものであり、その後は自ら資金調達を行い、事業を継続することを前提としている。本来は、行政が対応すべき課題に対して、休眠預金という個人の財産を投入することで、行政コストを削減しつつ、民間団体に責任だけを押し付ける仕組みづくり」と解説するのだ。
そして驚くことに、この基本方針の終わりには、「休眠預金活用法は、衆参両院において施行から5年後に、幅広く見直しを行うことという附帯決議がなされている」としたうえで、「本制度は我が国では前例のない、いわゆる『社会実験』である」と書かれているのだ。
メガバンク幹部は、「社会実験を国の責任で、国の予算を使わずに、休眠預金という個人の財産を使って行うというのは、本当に最悪の活用方法としか言いようがない」と、吐き捨てる。
実験が失敗すれば、失われるのは個人の財産であり、国の財政は痛まない。「こんな仕組みづくりのために、民間金融機関は巨額のシステム投資を行わなければならないなんて、本当に『筋悪』としか言いようがない」と、憤懣やるかたない。(鷲尾香一)