トップが変わらないと、働き方改革も進まず、生産性も上がらない。日本企業の停滞の原因は、すべてトップが無能だからという。
社団法人・働き方改革コンソーシアム(CESS)が東京・虎ノ門ヒルズで開いた「働き方改革実現会議」シンポジウム(2018年2月20日)の後編は、社長のあり方をめぐる熱い議論を紹介する。
NEWテクノロジー時代の「社長の選び方」(前編)優秀な社員は優秀な社長になれない
欧米では「ゾンビ」を切れないと、経営者がクビになる
宮内義彦さん「日本の企業には、じつは経営者が経営をしにくくしている問題があります。そこにメスを入れないと本当の『働き方改革』になりません。それは、言い方は悪いですが、『正社員の既得権』という問題です。企業の中では完全雇用に保障されている正社員と、保障されていない非正社員がいて、階層が分かれている。正社員には22~65歳まで働いてもらわないとダメで、人員が余った時にお引き取り願えないから、企業は不公平を承知で非正規の人を雇う。正規雇用の特権にメスを入れないと、日本は活性化できず、先進諸国の中の最後尾についたままになります」
竹中平蔵さん「それは本質的な議論です。労働者同士の対立、『労労対立』ですね。今回の働き方改革では、政府側からはそういう言い方はしていないでしょうが、あたかも『できるだけ多くの人を正規雇用にする』というメッセージを出している気がします。『同一労働同一賃金』というキャッチフレーズも出しており、バイトや派遣などの非正規雇用間ではすでにそうなっていますが、問題は、正社員と非正社員のあいだでそれができるかです」
斉藤惇さん「経営者にも差があります。できる経営者とできない経営者の違いは、組織をまとめていけるかどうかです。会社の中には、たとえばテレビやコンピューター、家電など、さまざまな部門の壁がある。その中のひとつがお荷物になって『ゾンビ』のようになる。できない経営者は各部門の利益を調整することに気を遣い、ゾンビを切れない。できる経営者は、ゾンビをスッパリ切り、組織を統合します。
欧米ではゾンビを持っていると、経営者が株主から首を切られるから、ゾンビを市場に売りに出します。すると、それを買う者がいて、再生してまた売りに出す。ゾンビを売った経営者は得たお金で社内ベンチャーを立ち上げ、会社を立て直す。独シーメンスも米国のビッグスリー(自動車大手)もこうやって立ち直りました。
日本の企業でまとめることができる経営者は、宮内義彦さんのような独裁者型(笑)かオーナー企業だけです。2月(2018年)の平昌五輪を見て思ったのは、メダルを取った選手の多くが外国人の優秀なコーチをつけていることです。プロ野球でもそうですが、素晴らしい投手や打者が優秀な監督になるとは限りません。日本の企業でも、優秀な社員が出世して社長になってもダメ。仕事ができることと、人を使うのが上手なことは全然違いますから」
竹中さん「ダボス会議に行くと、100~200人くらいの社長だけが集まるコミュニティーがあります。本業は何かと聞くと、みんな『社長である』と。各国のいろいろな分野の会社で社長をしている人も多いです」
宮原禎さん「経営者のまとめる力は大事ですが、じつはプロダクト担当やエンジニア社員のゆとりを認めることも、IT業界ではとても大事なことなんです。半袖、短パン出社、好きな時間の退社といった一定量の自由とゆとりが創造性を発揮するためには必要です。シリコンバレーでは成果を上げないと、即ファイヤー(首切り)ですが、社員自身に価値があると思うので、そこまで厳しくすると恐ろしさが先に立ちます」