2018年2月中旬、地方銀行のトップは金融庁の遠藤俊英・監督局長の話に震撼した。
「自己資本対比で外貨リスク量が高い地銀に対して、米金利上昇への対応についてヒアリングを実施した。その結果、ヒアリングを行ったすべての銀行で、外国債券や外債投信が評価損となっていることを確認した。なかには、今期のコア業務純益(融資などによる金融機関の本来の収益)予想額に匹敵する水準まで評価損が拡大している銀行もある」
地銀の「創意工夫」が苦境を救う、はずだった
つまり、日本銀行のマイナス金利政策で収益源を失った地銀が、運用益を求めて投資した外国債券や外債投信の評価損が、銀行本来の収益を吹き飛ばすほどに拡大していることを明らかにしたのだ。
それだけではない。遠藤局長は続けて、「より深度のあるモニタリングが必要と思われる地銀に対して、今後、報告を求めることにより実態把握と対話を行っていく」と一段と厳しいモニタリングを行っていくことを宣言した。
事実、地銀の経営は危機に面している。2018年3月期第3四半期累計で、池田泉州銀行は外国債券投資などの失敗で82億円の赤字に転落した。上場している地銀82行(第二地方銀行を含む)のうち、57行の業務純益が減益となった。
一方、地銀には金融庁に対する怨嗟の声が渦巻いている。
確かに、マイナス金利政策の中で十分な収益を上げられないのは、地銀各行の自己責任であり、金融庁、特に森信親長官はこれまで一貫して、「個々の地銀が創意工夫して、既存のビジネスモデルではない、新たなビジネスモデルをつくり上げることが重要だ」と力説してきた。
そして、森長官が新たなビジネスモデルづくりに取り組む代表例として、事あるごとに取り上げたのが「スルガ銀行」だった。
そのスルガ銀行は、不動産会社のスマートデイズが運営するシェアハウス「かぼちゃの馬車」の経営危機で、大きな傷を負った。
スルガ銀行が負った傷
「かぼちゃの馬車」の仕組みは、オーナーが銀行ローンを組んでシェアハウスを所有し、スマートデイズがシェアハウスを一括で借り上げ、家賃を保証する。オーナーは融資を受けて物件を購入し、継続的な家賃収入で利益を得るサブリースだ。
そのオーナー向け融資を実施していたのが、スルガ銀行。そして、このビジネスモデルを事あるごとに賞賛して紹介していたのが、森長官だった。
しかし、「かぼちゃの馬車」の実態は、入居率が5割を下回り、オーナーへの家賃保証を継続できる状況ではなかった。2018年1月、スマートデイズはついにオーナーへの賃貸料の支払いを停止した。
これにより、スルガ銀行への融資の返済が滞り、破たんに追い込まれるオーナーが続出する事態となった。オーナーらで構成する「スマートデイズ被害者の会」はスルガ銀行に対し、集団訴訟も辞さない構えだと報じられている。
これが、森長官が褒め称えた新たな銀行ビジネスの末路でもある。
もちろん、地銀も経営努力を進めていかなければならないのは、言うまでもない。しかし、詐欺まがいのビジネスの片棒を担ぐような融資スタイルが、本当に地銀に求められた新たなモデルなのだろうか――。経営が苦しい時期だからこそ、金融庁も含め、地銀は本当の地域金融のあり方を真摯に考えていく必要があるはずだ。(鷲尾香一)