AI(人工知能)などの最新テクノロジーが人間の仕事に取って代わろうとしている現在、私たちはどう働いたら幸せになれるだろうか――。
社団法人・働き方改革コンソーシアム(CESS)が2018年2月20日、東京・虎ノ門ヒルズで開いた「働き方改革実現会議」シンポジウムの議論は、スキルを磨くにはどう学ぶか、従業員の評価はどうあるべきか、そして転職のススメ...... と幅広いテーマに及んだ。
NEWテクノロジー時代の働き方(前編)イヤな仕事はAIに任せ、クリエイティブな仕事を!
「首切り補償」で大企業労組と中小経営者が手を組むワケ
竹中平蔵さん「AIが人間の仕事に置き換わるスピードが早まっている気がします。メガバンクが相次いで大量のリストラを発表しています。建設機械大手のコマツがドローンで地形の3次元データを作るシステムを開発しましたが、これは測量技師1万人分の働きに匹敵するといいます。また、羽田空港では顔認証を導入しましたが、入国審査官の仕事はどうなるのでしょう?」
南場智子さん「AIの時代は思った以上に早くきます。当社でもアルバイトが担っていたメールによる顧客サポートの仕事をAIにやらせると、非常に速いばかりか、思ってもいなかった作業までやってくれる。最後まで人間がやる仕事はクリエイティブなものだけになり、単純で面白くない仕事は全部AIがやるようになります。自分は何をやりたいのか、真剣に考えなくてはいけません」
八代尚弘さん「リストラといえば、今度の労働基準法改正案では引っ込めてしまいましたが、解雇の金銭補償の問題がいい例です。『首切り自由法案か』と反対の声が多かったのですが、欧州主要国では労働者を守る、当然の仕組みとして導入されています。そもそも労使が協調する企業内労組ばかりの日本では、真の『労使対立』がなく、あるのは『労労対立』、労働者同士の対立です。これまで大企業で守られてきた正社員がどんどん減って、正社員と非正社員の利害対立が高まっています。
一方、中小企業では事実上、わずかなお金で自由に首を切っており、解雇された人は保護されていません。大企業の社員が手にする和解金は青天井です。つまり、中小企業では裁判で争う費用がある人だけが保護され、裁判で争うか、争わないかで凄まじいほどの格差があります。ヨーロッパでは金銭補償の金額を決め、労働者を救済しています。
しかし、日本で反対しているのは大企業の労働組合。なぜかというと、補償金の上限を決められると、青天井だった和解金よりもらえる金額が少なくなるからです。
もう一つ反対しているのが中小企業の経営者。今まで自由に首を切っていたのに、補償金の下限額が決められてしまうからです。テーブルの下で大企業の労働組合と中小企業の経営者がこっそり手を結んでいるのに、メディアはそのことを報道しません」
留学はご褒美より、無休でも学びたい人の「手挙げ方式」で
竹中さん「大企業の労働組合の強いところと中小企業では、首を切られた人の補償金額に3ケタの格差があると言いますね。解雇の補償がない国は、OECDの中で日本と韓国だけです。こうした問題を正面から議論すると、解雇の自由化につながるという声が必ず起こってきます」
南場さん「当社(DeNA)もグローバル企業ですが、労働の自由化が大事な問題です。米国では事業をやめる判断に悩むことはありませんが、日本ではとても悩む。それとは逆の話ですが、IT業界は流動性が非常に高く、従業員に辞められないようにするにはどうしたらよいか、とあの手この手で引き止めるのに必死です。兼業や副業を認めるのもその一つです。
兼業の開放では、企業情報の守秘義務が問題になっていますが、IT業界ではこれだけ情報が流通していますから、他社に流布されても『どうぞ』という感じで構えるしかない。一個人から漏れるより、優秀な人がいなくなるほうが怖いです」
竹中さん「労働者の引き止めといえば、海外ではサバティカルといって、3か月や1年間の長期休暇や留学させる制度がありますね」
南場さん「大賛成です。優秀な人ほど外に出て学んできてほしい。リフレッシュしてハイパフォーマンスでやってほしいですが、戻ってきてくれないと困ります(笑)」
八代さん「サバティカルもいいですが、長期休暇を与えるなら、その間は無給にすべきです。有給の留学ではほんの一部の労働者への『ご褒美』になってしまうので、学ぶ意欲のある労働者が自発的に無給で休業を選択する『手挙げ主義』にすべきです。留学して資格を取ってきても、日本の企業では十分に昇給させてもらえないので、教育休業して資格を得て、会社に戻ったときに相応の処遇を得られるようにすることが、個人と会社の双方にとって望ましいでしょう。
これまでは会社に尽くす人を大事にしてきましたが、独りよがりの忠誠心など役に立ちません。むしろ実力があり、いつでも辞められるが、それでも会社が好きだから残る。そんな社員が増える企業が強くなるのです。どこにも行けないから残る社員など、いらなくなります」
上司が部下を評価する時、部下が反論する権利も認める
荻島浩司さん「この10年間、国内総生産(GDP)で中国は3倍、インドネシアは2倍、アメリカも4割増えましたが、日本は数%の低成長です。企業も働く人も変わらないといけない。経営者のマインドが大事です。リーダーは部下の一人ひとりとミーティングを重ね、その人の仕事のやりがいや方向、成果をしっかりつかむことです」
八代さん「企業が変わるには、従業員を評価する人が変わらないとダメです。まず個人の仕事内容を明確にして、人事評価をしっかりやる。上司が部下を評価するが、部下が反論する権利も認める。それらのやりとりを、さらに上の上司が評価するのです。すると、中間管理職の仕事ぶりもよくわかります」
竹中さん「中間管理職の仕事はただ一つ、評価することだといいますね。さて、最後にこれだけは言いたい、というものはありますか」
南場さん「個人に対しては、『どうか転職してみてください』とぜひ言いたい。盤石に見える企業のブランドなんて、5年後にはどう変わるかわかりません。仕事ができる人は、まだ手遅れになっていないうちに転職しましょう」
八代さん「日本の長期雇用と年功序列は崩れようとしています。米国では優秀な人ほどベンチャーを起こしますが、日本では大企業の社員になりたがる。チャレンジ精神を持って、自分の選択肢を広げてほしいです。
また現在、政府が『働き方改革』の音頭をとっていますが、本来は企業がやっていくべきことです。政府が進める『同一労働同一賃金』も、本来、企業が進めていかなくていけません。働き方の枠組みを抜本的に変えて、『同一労働同一賃金』に取り組む企業が増えていけば、日本は変わっていきます」
【連載】「働き方」「働かせ方」を考える
NEWテクノロジー時代の働き方(前編)イヤな仕事はAIに任せ、クリエイティブな仕事を!
NEWテクノロジー時代の「社長の選び方」(後編) できる経営者は「ゾンビ」を退治する!?
NEWテクノロジー時代の「社長の選び方」(前編)優秀な社員は優秀な社長になれない
フォーラム参加者 プロフィール
●竹中平蔵(東洋大学教授・慶應大学名誉教授)
日本開発銀行を経てハーバード大学客員准教授、経済財政政策担当大臣、金融担当大臣、総務大臣、郵政民営化担当大臣等を歴任、未来投資会議メンバー。
●八代尚宏(昭和女子大学特命教授)
旧経済企画庁を経て上智大学教授、日本経済研究センター理事長などを歴任。専門は労働経済学。主な著書に『シルバー民主主義』『働き方改革の経済学』。
●南場智子(DeNA(ディー・エヌ・エー)社長)
津田塾大学卒、ハーバード大学経営学修士、DeNA創業者、プロ野球 横浜DeNAベイスターズオーナー。
●荻島浩司(チームスピリット社長)
1996年同社創業。2011年働き方改革プラットフォーム「TeamSpirit」を企画・開発してSaaS(クラウド上のソフトウェアサービス)ビジネスに参入。