「福島はまだ道半ば、です」――。福島県の、ある金融機関の幹部はJ‐CASTニュース会社ウォッチ編集部の取材に対し、復興への道のりをそう話す。地震による津波の被害と、東京電力福島第一原子力発電所の事故があった浜通りから離れた、福島市や郡山市のある中通りや会津地方にまで、原発事故による風評被害がいまだに及んでいるからだ。
「どの企業も頑張っているし、1年また1年と活気は戻ってきています。それでもねぇ......」と、言葉が続かない。
「戻りたくない」「戻れない」人がいる
2018年3月11日。東日本大震災から丸7年を迎え、震災の影響は徐々に薄れている。この2、3年、福島県相双地域(浜通り)の復興も、ようやく活気づいてきた。福島県の地方銀行、東邦銀行のとうほう地域総合研究所がまとめた「相双地域(浜通り)経済の現状について」(2018年2月報告)によると、相双地域の工場立地件数は、震災直後の2011年と2012年は震災前の10年から半減したものの、13年以降は増勢基調に転じ、2015年は震災前の3.5倍ほどの水準に達した。福島県全体の水準を大きく上回っている。
災害復旧事業が下支えとなっている公共投資や補助金による企業誘致、復興公営住宅などの住宅投資など、「官主導」による政策効果が期待できる分野では堅調な動きがみられる。
ただ、一方で「定住人口が震災前から40%以上下回っていることが、相双地域経済における最大の問題点」と指摘するように、生産年齢人口の減少が深刻化。復興特需の恩恵を受ける建設業などの業種で、深刻な労働力不足による事業の遅れが懸念されている。加えて、観光施設の閉鎖や放射能に対する恐怖感などもあり、観光客入込数は震災前の水準を大きく下回る状況が続いている。
前出の金融機関の幹部は、「原発事故の風評被害は深刻です。おそらく東京にいてはわからないほどだと思いますよ」と話す。4月中旬ごろには福島県内でも桜が見ごろ。福島市の信夫山公園や会津若松市の石部桜、郡山市の開成山公園などの名所がにぎわうが、「ゆっくり見ようという人が減ったようです」と、宿泊客が減少していると指摘する。
「(原発事故などで)他県へ避難した人が『戻りたくない』『戻れない』っていうのだから、桜をゆっくり眺めようなんて。そんな気になるわけないか......」
震災関連倒産 2013年以降は飲食業や宿泊業多く
宮城県の地方銀行、七十七銀行は「県内企業における震災からの復旧・復興に関する調査」(経済月報2月号)で、製造業の生産水準を震災前後で比較。震災前と比べた足元の生産水準は、「80%以上~100%未満」の回復が41.7%と最も多く、次いで「100%以上~120%未満」が30.3%となった。
震災前の生産水準を上回った企業の割合をみると4~5割程度で、足元では窯業・土石や一般・輸送機械などが5割を超える一方、食料品が3割程度にとどまっている。
また、非製造業では、震災前と比べた足元の売上高の水準が「100%以上~120%未満」が37.0%と最多。次いで「80%以上~100%未満」が29.5%となった。震災前の売上高水準を上回った企業の割合は5割程度。足元では卸売業や建設業が6割を超えているものの、まだ「復活」とは言い難い。
東京商工リサーチによると、2011年3月から2018年2月までの84か月に、震災関連で倒産した企業の件数は全国で累計1857件(2月28日現在)に達した。
震災関連倒産を暦年別でみると、2011年が544件、12年は前年比9.9%減の490件だった。13年は32.0%減の333件、14年は47.4%減の175件と大きく減った。その後も、15年141件(前年比19.4%減)、16年97件(31.2%減)、17年71件(26.8%減)で推移した。2017年は震災時(11年)の7分の1以下に減少。しかし、月平均では5.9件ペースで推移している。震災の影響をいまだに引きずっている企業が少なくないようだ。
産業別では、宿泊業、飲食店などを含む「サービス業他」が492件で最多。なかでも、ホテル・旅館などの「宿泊業」は112件にのぼった。「飲食店」も93件あった。次いで「製造業」が422件、「卸売業」が342件で、いずれも飲食料品を取り扱う企業が多かった。「建設業」が222件、「小売業」が174件と続く。
年別でみると、震災直後の2011年と2012年は、サプライチェーンの寸断や工場被災などを背景に「製造業」が最も多かったが、2013年以降は、飲食業や宿泊業などを含む「サービス業他」の割合が高くなった。
従業員の倒産被害、正社員だけで全国に2万8597人
震災関連倒産を都道府県別でみると、全国では島根県を除く46都道府県で関連倒産が発生。1995年1月に発生した阪神・淡路大震災時に23都府県だったのと比べて2倍に広がった。津波の被害が東北沿岸部から太平洋側の広範囲に及んだため、被害の甚大さも重なって影響が全国規模に拡大した。
都道府県別の倒産件数のうち、震災関連倒産の占める構成比(2018年1月までの累計)をみると、震災で甚大な被害を受けた東北、なかでも宮城県が27.1%で最も高かった。次いで、岩手県の22.8%、福島県は18.6%だった。山形県が11.7%、青森県の9.2%と続き、震災の大きさを浮き彫りにしている。
一方、倒産企業の従業員被害者数は、2018年2月28日現在で2万8597人に達した。1995年の阪神・淡路大震災時は4403人(3年間で集計終了)で、単純比較で約6.5倍に膨らんだ。
都道府県別では、東京都が9167人で全体の32.0%を占めた。次いで、宮城県の2233人、北海道1426人、大阪府1265人、栃木県1216人、神奈川県1081人、福岡県1003人と7都道府県で1000人を超えた。震災で甚大な被害を受けた岩手県、宮城県、福島県の被災3県の合計は3907人で、全体の13.6%にのぼった。
ただ、この数字はパートやアルバイトなどを含んでいないため、倒産企業の従業員数はさらに膨らんでいるはずだ。