長時間残業、中小企業よりも待遇のよい大企業のほうが深刻
竹中さん「戦後の労働基準法制定以来、70年ぶりの大改革という改正案が国会に出されています。日本の場合は雇われる側が弱者ということで、その保護の側面があまりにも強すぎるという指摘もあります。裁量労働制に対する批判も根強いですが、これは政府や企業に対する不信が強いという表れなのでしょうか?」
八代さん「際限なく働かされるのではないかという、労基法改正に対する懸念もわかります。日本人の働き方は外国人から恐ろしがられています。これまでは残業代が、企業に対する抑止力になっていた。それがなくなると、労働者を守るものがなくなるといったロジックです。米国では労働者にひどい扱いをする企業から、質の高い労働者はみんな逃げ出すので、そんな企業はすぐに市場で淘汰されます。
とはいえ、日本では労働者が逃げにくい構造になっています。残業というとイヤなのに働かされるという誤解がありますが、じつは長時間残業の問題は、中小企業よりも待遇のよい大企業のほうが深刻です。恵まれているはずの大企業で、労働者が過労死の問題が出るほど酷使されている。年功序列型賃金の大企業の労働者は給料も社会保険もいいので、定年より前に辞めると損になるから逃げ出せない。
もっと自由に辞めても不利にならない、労働市場で雇用の流動化が進めば、労働者を大事にしない会社は退場を迫られます。辞める自由を高めることで働く人を守るという観点で、雇用の流動化が大事なのです。
ほとんど報道されていませんが、労基法の改正案の一つに、年間104日以上の休日を企業に義務付ける『休日規制』が提案されています。これはヨーロッパ型のよい規制だと思います。残業代が長時間労働の歯止めになっていないので、休日を強制的に設けるという新しい案は労働者にメリットが大きく、評価されるべきです」
※ 編集部注:安倍晋三首相は2018年2月28日、今国会に提出予定の働き方改革関連法案から「裁量労働制」の対象業務拡大に関わる部分を削除することを決めた。これは、裁量労働制をめぐる厚生労働省のデータに多くのミスが見つかり、批判が高まったため。
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フォーラム参加者 プロフィール
●竹中平蔵(東洋大学教授・慶應大学名誉教授)
日本開発銀行を経てハーバード大学客員准教授、経済財政政策担当大臣、金融担当大臣、総務大臣、郵政民営化担当大臣等を歴任、未来投資会議メンバー。
●八代尚宏(昭和女子大学特命教授)
旧経済企画庁を経て上智大学教授、日本経済研究センター理事長などを歴任。専門は労働経済学。主な著書に『シルバー民主主義』『働き方改革の経済学』。
●南場智子(ディー・エヌ・エー社長)
津田塾大学卒、ハーバード大学経営学修士、DeNA創業者、プロ野球 横浜DeNAベイスターズオーナー。
●荻島浩司(チームスピリット社長)
1996年同社創業。2011年働き方改革プラットフォーム「TeamSpirit」を企画・開発してSaaS(クラウド上のソフトウェアサービス)ビジネスに参入。