その42 動物園のパンダ 「こんなものいらない!?」(岩城元)

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   2017年12月19日、東京の上野動物園で生後6か月のジャイアントパンダの赤ちゃん「シャンシャン(香香)」が一般公開された。同動物園で生まれた赤ちゃんパンダの公開は、実に29年ぶりとのこと。以来、上野かいわいはパンダで沸き立ってきた。

   動物園は公開初日から今年1月末まで、抽選方式で観覧者を選んだが、年内の倍率は69倍という加熱ぶり。抽選には外れたが、「雰囲気だけでも味わいたい」と、公開初日の動物園にやってきた人もいた。

  • 上野動物園のパンダ。ただし、シャンシャンではなく、近ごろは「のけ者」ぎみの父親のリーリーである。(筆者撮影)
    上野動物園のパンダ。ただし、シャンシャンではなく、近ごろは「のけ者」ぎみの父親のリーリーである。(筆者撮影)
  • 上野動物園のパンダ。ただし、シャンシャンではなく、近ごろは「のけ者」ぎみの父親のリーリーである。(筆者撮影)

シャンシャン、しょせん檻から出られまい

   年末から年始にかけて、JR上野駅の構内では「パンダフル ウインター」という表示が目を引いた。「パンダフル」は「ワンダフル」をもじっている。エキナカ(駅中)の飲食店では「パンダフル グルメ」や「パンダフル スイーツ」が売られていた。

   新聞やテレビもパンダ人気を盛り上げるのに懸命のようだった。公開前の新聞には「シャンシャン 外遊び大好き」「会いに来て 驚かないよ」と、シャンシャンがまるで公開を心待ちにしているかのような見出しが躍った。公開されると、「デビュー ママと一緒に」と、母子の写真が紙面を飾った。

   しかし、シャンシャンが外遊び大好きと言っても、それはしょせん、檻(おり)や囲いの中でのことだ。シャンシャンは雄の「リーリー(力力)」、雌の「シンシン(真真)」の両親とともに、いわば「囚徒」なのである。しかも、死ぬまで外に出ることは許されない。

   パンダに限らず、動物園ではライオンも象も猿もすべてが囚徒である。人間の楽しみのために、動物たちをいじめているとも言える。

   そんな動物園なのだが、いくつかの擁護論がある。まず、子供に動物と「親しむ」機会を与えられるし、珍獣などを見ると見聞が広がり、「教育」になるとの主張である。

   しかし、壁や柵に遮られて、直接には動物と触れ合えないのだから、「親しむ」はいささか大げさである。それに、本来の大自然にいるのではなく、檻に閉じ込められた動物は「本物」とは言い難い。

勝手に騒ぐ人間に「偽善」臭さ感じる

   加えて、最近の動物園は絶滅に瀕している動物の「種の保存・繁殖」に役立っているとの主張もある。たしかに、上野動物園はシャンシャンという新しい生命の誕生に一役を買っている。だが、種の保存・繁殖は本来の生息地の中でこそ行うべきであろう。

   そして、上野動物園や近くの商店街が何よりも期待しているのは、シャンシャンに引かれて入園者が増え、その人たちがカネを落としてくれることである。地元の百貨店では100万円の純金製誕生記念メダルがけっこう売れたそうだ。シャンシャンを歓迎しない手はないのである。

   そうかと言って、僕は何も「囚徒をすべて解放して、野生に戻すべきだ」とか「動物園をなくすべきだ」とかまで言い張るつもりはない。ただ、シャンシャンが囚徒であることを棚に上げて、「かわいい」「抱きしめたい」「上野の宝だ」などと人間が勝手に騒いでいる。そのことに「偽善」の臭いを強く感じるのである。

岩城 元(いわき・はじむ)
岩城 元(いわき・はじむ)
1940年大阪府生まれ。京都大学卒業後、1963年から2000年まで朝日新聞社勤務。主として経済記者。2001年から14年まで中国に滞在。ハルビン理工大学、広西師範大学や、自分でつくった塾で日本語を教える。現在、無職。唯一の肩書は「一般社団法人 健康・長寿国際交流協会 理事」
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