日本のそして世界の株価を主導しているのは、何だかんだ言っても米国市場である。
そこで今回は米国の株価が、なぜ大きな調整局面に入ったのか。そして、今後どうなると予測されるかを展望してみた。
金利上昇は株価にマイナス
ここ1か月ほどの株価の変動の大きさは近年例を見ないものだった。2018年1月下旬ごろまで、米国の代表的株価指数であるS&P500は順調に上昇していた。
2009年3月6日に672ドルだったのが、その後9年近く上昇してこの1月26日には4倍以上の2872ドルに達した。しかし、そのあと急激に下がりはじめ、2月8日に一たん2561ドルまで下がった。その後にまた反発して、2月20日の終値は2716ドルになっている。
では、これからどうなっていくのか? たとえば1929年の大恐慌のように今後長い間トンネルに入ることになるのか、それとも2007年のリーマンショックのように、一たんは急落しても、その後ほどなく回復していくのか――。
まず、株価の基本を押さえておこう。
株価は大きく二つの要素で決まる。ひとつは将来の企業の収益。企業の将来の儲けが増えるだろうと市場が予測すれば株価が上がる。もう一つは、他の投資の収益性との関係だ。投資家は、株よりも割のいい投資がみつかったら、株を売ってそちらに乗り換える。つまり、金利が上がれば債券投資の利回りが高くなるため、株価が下がる、という関係にあるわけだ。
金利変動による影響は大きく、金利が0.1%上がったら、株価は理論上、数%程度下がる計算となる(金利動向が、いかに株価に大きく影響するかを理解することは非常に大事である)。
さて、1月までの米国株の長期的上昇には以下のような特色があった。
(1)世界経済が好調で、企業業績が好調だった。各国中央銀行はゼロ金利と量的緩和で株価を支えた。低成長、低インフレと低金利というのは株価に理想的な環境であった。
(2)株式相場が非常に安定していた。少し下がったらそれは絶好の買い時だという理解がなされた。価格変動率が低く、ただ株式を保有していれば儲かるという単純な相場だった。
(3)長い上昇相場が続いたことで、投資家はリスクに無頓着になり、投資額を増やしていった。
ところが、状況は一変。まず、株式市場の楽観ムードが吹き飛んだ。投資家が不安を感じるようになり、価格の変動率が大きく上昇した。また、金利が上昇しはじめた。各国の中央銀行は金利を上げはじめ、金融緩和を解除する方向に舵を切った。
また、「トランプ減税」によって連邦政府の赤字が増える。そのことで金利をさらに上げることが予想される。繰り返すが、金利の上昇は株価にとってマイナスである。
過度な調整で過熱感が冷えた
では、今後の株式相場はどう見るべきなのか――。私は基本的には楽観的に考えている。その最大の理由は、経済のファンダメンタルズが引き続きいいこと。米国企業の収益は今後も良好とみられ、それがトランプ減税によりさらに上向くことが期待される。
株式の買戻しや配当利回りも増える傾向にある。企業業績がよい限りは、株価が大きく下がることは考えにくい。むしろ、経済の過熱そしてインフレというリスクを心配すべきところだが、そのインフレ率は今のところ低いレベルにとどまっている。
その他のリスクもまずまず小さく抑えられている。たとえば、2007年時はサブプライムローンが巨大な金額になり、それが金融不安を生んだが、今回はそういったレベルの金融危機が起きる兆候は見られない。
仮想通貨の問題などは、金融システム全体を揺るがすような甚大なものではない。また、地政学的には北朝鮮問題などがあるが、それが相場を直撃する可能性は非常に低いであろう。
つまり、適度な調整によって株式相場の過熱感が冷え、「よりまっとうな状態になった」というのが今の相場であるとみている。それまでにできたバブルが適度にしぼんだ状態と言ってよいのではないか。
金利上昇はネガティブな要素であるが、それほど大きな上昇はないとみている。
今後は、これまでのような一本調子の上昇というのは望みにくいが、逆に言えばリスクを踏まえた正常な動きをしていくと考えてよいのではないか。
米国株は、まだまだ元気だ。(小田切尚登)