民法の相続分野の規定(相続法)が約40年ぶりに大きく変わりそうだ。 相続法の改正案は法制審議会で3年間も審議されてきたが、この3月上旬に通常国会に提出され、成立すれば2019年中にも施行されるとみられている。1980年に配偶者の法定相続分を「3分の1」から「2分の1」に引き上げて以来の大幅改正となる。
遺された配偶者を保護する見直し
この改正案の一番のポイントは「配偶者優遇」だ。
現行制度では、相続人は相続開始時から被相続人(故人)の一切の財産を引き継ぐ。したがって、居住用の土地・建物は遺産分割の対象になり、自宅以外にめぼしい財産がなければ、同居していた妻(夫)が遺産分割のために自宅の売却や退去を迫られ、住み続けられなくなるケースもある。
改正案では、こうした事態を避けるため、以下のような見直しをしている。
・「配偶者居住権」の新設
住宅の権利を「所有権」と「居住権」に分割して、配偶者は終身か一定期間の居住権を取得すれば、所有権が別の相続人や第三者に渡っても自宅に住み続けることができる。居住権は施設に入所するなどしても、譲渡や売買はできない。
居住権の評価額は、配偶者の年齢の平均余命などから算出され、高齢なほど安くなる。その分、これまでより多くの預貯金などを相続できる。
・住居の遺産分割対象からの除外
結婚20年以上の夫婦なら、配偶者が生前贈与や遺言で譲り受けた住居は遺産分割の対象から除外する。この場合も、配偶者は住居を離れる必要がなく、預貯金などの配分が増え、老後生活の安定につなげられる。
新たなトラブルの火ダネとなる可能性も
改正案にはほかに、自筆証書遺言を法務局で保管できるようにする制度や、遺産分割前に相続人が預貯金を引き出せるようにする仮払い制度を新設。被相続人の介護などをした相続人以外の親族が相続人に金銭を請求できるようにすることなど、注目すべきポイントは多い。
高齢化が進む現在、遺された配偶者が長生きするケースも多く、また親と同居しない子も増えている。ただ、「配偶者優遇」は時代の流れにそうものの、一方で新たなトラブルの火ダネとなる可能性もある。
たとえば、配偶者居住権は婚姻期間を問わず適用されるが、配偶者が後妻で家族との折り合いが悪い場合、後妻が居住権を主張しても家族が認めなければ、後妻はその家に住み続けることはできない。
逆に、後妻に居住権を与えるという遺言があると、家族の合意より遺言が優先されるので、家族が反対しても後妻は住み続けることができる。
いずれにしても、遺された家族間の争いが容易に想定できる。
親からの相続はいつか必ず起きる。誰もが望まない相続の「争族化」を防ぐためにも、国会審議の行方や関連のニュースに注意を払っておきたい。 (阿吽堂)