安倍晋三首相が政策の柱に据える「働き方改革」が迷走している。
「働き方改革関連法案」の「裁量労働制の拡大」に関連して、厚生労働省が提出したデータに不備があり、「データのねつ造」との疑惑も浮上した。このデータを元にして国会答弁を行った安倍首相は、その後、答弁を撤回し謝罪する事態となった。
比べようのない2つのデータ
問題となった安倍首相の答弁は、2018年1月29日の衆院予算委員会でのもので、立憲民主党の長妻昭代表代行から裁量労働制で働く人の労働時間を問われ、「平均的な方で比べれば、一般労働者よりも短いというデータもある」と答えた。
首相が答弁の根拠としたのは、厚生労働省の「2013年度 労働時間等総合実態調査」。この中で、裁量労働制で働く「平均的な人」の労働時間は9時間16分で、一般労働者より1日約20分短いという結果をもとに、問題となった答弁に至った。
ところが、この調査には落とし穴があった。一般労働者には「残業時間」を尋ね、裁量労働制で働く人には単なる労働時間を聞いていたのだ。質問そのものが違うのだから、正確なデータとは言えない。そこを野党から厳しく追及された。2月14日午前の衆院予算委員会で、「精査が必要なデータをもとにした答弁は撤回しおわびしたい」と謝罪した。
裁量労働制とは、企業の労使で定めた「みなし労働時間」で定額賃金を支払う制度。労働基準法では、1日8時間の法定労働時間を超えれば残業代が出る。一方、裁量労働制はたとえば、「1日の労働時間は8時間とみなす」と労使間で合意すれば、何時間働いても8時間分の賃金となる。
「労働時間に関係なく、仕事の成果で評価する」というのが表向きの理由で、したがって成果が上がれば、2時間しか働かなくとも、8時間分の賃金が出ることになる。現在は、研究開発職やシステムエンジニア、企画・立案などの業務に携わる人が対象だが、対象を一部の営業職まで広げようというのが、安倍首相の働き方改革の狙いだ。
しかし、実態面では、「裁量労働制にすることで、残業代を支払うこともなく、何時間でも働かせることができる」ことから、裁量労働制を盾に違法労働が罷り通る可能性がある、との指摘は多い。