「自分の居場所をつくってはダメ」...... 経営のプロが示唆した「社長業」の極意?(大関暁夫)

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   一部上場企業のS社で、数年来ナンバー2を務めて次期社長と目されていたYさん。S社では社長になれなかったものの、外部から招へいした経営のプロである新社長A氏の下で1年ほどの片腕役を務めた後、ヘッドハントで昨年日本を代表する企業群F社グループの中核会社の社長に就任しました。

   仕事の用事で久々にお目にかかったのですが、サラリーマン社長に関する興味深い話を聞くことができたので紹介します。

  • 「本当の社長」になるためには……
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社長の「影武者」だったYさん

   Yさんにとって、新社長A氏の片腕としてのS社時代終盤の1年は、業界素人の社長を支える新体制を安定させ、あらゆる点で従来以上にうまく回る新組織の運営体制を確立せよという、前社長からのこの上なく重たい特命を帯びての日々でした。

   「それまで私はナンバー2とは名ばかりで、一役員として担当分野を任され、特定分野の管理を担当していました。それが担当を外され、外様の新任経営者がやりやすいような組織運営を考え、それを軌道に乗せるというミッションに変わったのです。

   しかも相手は百戦錬磨の経営のプロです。プレッシャーも半端なく大きかったですが、生きたトップマネジメントの勉強をさせていただいたという意味では、今の立場でとても役に立つことばかりであり、本当に感謝しています」

   A新社長の影武者的ナンバー2として、どんな点が最も、現在の「社長業」の役に立ったのかについてたずねてみました。

「じつは最初の半年は、何を企画して組織を動かしても、なぜかいまひとつ満足のいかないことばかりだったのです。私はもとより、それまでオーナー社長職を振り出しに複数社で経営者としての仕事をしてきたA社長は、私以上にフラストレーションを感じていたことでしょう。
そんなある日、プロの経営者として感じるところがあったのでしょう。目から鱗のひと言を投げかけられました。『Yさんには私の立場で仕事をしてもらっているのだから、自分の居場所を考えちゃダメですよ』と言われたのです」

サラリーマン経験がない「プロ社長」の言葉

   自分の居場所...... Yさんが、とっさにはその言葉の意味を理解できずにいると、A社長はこんな話をしてくれたのだと言います。

「私には、いわゆるサラリーマン経験がありません。自分の企業を立ち上げ、それなりの成功を収め、その会社を売却した後は、請われて主に人の会社の経営者や後継者の育成を手伝ってきました。それも血縁後継者のいない組織ばかり。サラリーマン経営者の育成です。そこで目についたことは、サラリーマン社長、あるいは社長候補たちの悪いクセでした。彼らは無意識のうちに自分の居場所をつくりたがるということ。これは、経営者が組織の中で万が一の逃げ道をつくってしまうという、サラリーマン特有の悪いクセなのです」

   すなわち、たとえば技術系の社長なら、マネジメントそっちのけでも自分の得意分野である技術開発に毎度毎度口を出したがるとか。営業畑出身の社長なら、多忙な中もついつい社長営業に動いて営業実績積み上げに必要以上に絡みたがるとか――。

   そういう社長のことを新社長は、「自分の居場所をつくりたがる社長」と呼んでいたのです。

トップが「保身」 そのとき部下は?

   A社長はその理由を、次のように話していたそうです。

「ある程度規模以上の組織の長が居場所をつくりたがるのは、権限委譲で特定の部門を担当してきたサラリーマンゆえの宿命とも言えます。要するに、無意識に点取り虫になり自分を守ってくれる、イザという時の避難場所を確保したがることがサラリーマンにありがちな行動なのです。
見方によっては、保身とも受け取れるものかもしれません。トップに保身が見えるとき、下は本気でついてきません。そのことは覚えておくといいです。きっと役に立つでしょう」

   Yさんはこのことを機に、自分に与えられたミッション達成をもって会社を辞めるつもりで、点取り虫にならず、居場所を考えずに仕事をすることに気持ちを切り替えたのだといいます。

「結果的に、それが本当にうまくいきました。そして、与えられたミッションの達成が見えた頃に、今の会社へのヘッドハントの話が舞い込んできたのです。恐らくすべては、私にA社長のフォローを命じた前社長が同じサラリーマンである自身のご経験を踏まえて計画的に仕組んでくれたことなのではないかと、思っています。
自分の後継にするには心もとない私を、オーナー経営者ご出身で経営のプロであるA氏の下で学ばせることで、経営者として一人前にして外に出してやろうと考えてくれたのではないかとね

   自分でその地位を勝ち取りながらも、ある程度の任期を定められたサラリーマン社長。一方、社長になる心構えを長らく持ちながら就任し、任期意識のないオーナー社長。大きく異なる二つのタイプですが、社員から見れば同じ社長には変わりありません。

   任期のあるサラリーマン社長のほうが、気持ちを切り替えて本当の社長になりきり、社員の信頼を勝ち得ることが、じつは難しいのかもしれません。

   Yさんが教えられた「自分の居場所をつくらない」心がけができているサラリーマン社長は、じつは少ないのではないかなと感じた次第です。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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