トップが「保身」 そのとき部下は?
A社長はその理由を、次のように話していたそうです。
「ある程度規模以上の組織の長が居場所をつくりたがるのは、権限委譲で特定の部門を担当してきたサラリーマンゆえの宿命とも言えます。要するに、無意識に点取り虫になり自分を守ってくれる、イザという時の避難場所を確保したがることがサラリーマンにありがちな行動なのです。
見方によっては、保身とも受け取れるものかもしれません。トップに保身が見えるとき、下は本気でついてきません。そのことは覚えておくといいです。きっと役に立つでしょう」
Yさんはこのことを機に、自分に与えられたミッション達成をもって会社を辞めるつもりで、点取り虫にならず、居場所を考えずに仕事をすることに気持ちを切り替えたのだといいます。
「結果的に、それが本当にうまくいきました。そして、与えられたミッションの達成が見えた頃に、今の会社へのヘッドハントの話が舞い込んできたのです。恐らくすべては、私にA社長のフォローを命じた前社長が同じサラリーマンである自身のご経験を踏まえて計画的に仕組んでくれたことなのではないかと、思っています。」
自分の後継にするには心もとない私を、オーナー経営者ご出身で経営のプロであるA氏の下で学ばせることで、経営者として一人前にして外に出してやろうと考えてくれたのではないかとね
自分でその地位を勝ち取りながらも、ある程度の任期を定められたサラリーマン社長。一方、社長になる心構えを長らく持ちながら就任し、任期意識のないオーナー社長。大きく異なる二つのタイプですが、社員から見れば同じ社長には変わりありません。
任期のあるサラリーマン社長のほうが、気持ちを切り替えて本当の社長になりきり、社員の信頼を勝ち得ることが、じつは難しいのかもしれません。
Yさんが教えられた「自分の居場所をつくらない」心がけができているサラリーマン社長は、じつは少ないのではないかなと感じた次第です。(大関暁夫)