大学には、いったいどれだけの「知」の山が眠っているのか――。多くの教員がさまざまな研究を行なっているが、所属が変わったが後任がいない、以前やっていたが諸般の事情で続けられなくなったなど、死蔵状態の研究が数多くある。
京都大学がそういった、このまま消えていくには惜しすぎる研究を集めて、タダ同然で譲る「研究テーマのガレージセール」という画期的な催しを開く。アイデアとデータを他の研究者や企業に提供、活かしてもらうのが目的。企業にとっては思わぬ「ビジネスのお宝」を発掘できるかもしれない。
アイデアやデータの使用条件 唯一、研究者の名誉を守ること
「研究テーマのガレージセール」は、2018年2月19~23日の10時~18時、京都大学吉田キャンパスの国際科学イノベーション棟1階ラウンジで開かれる。他人に渡すのは惜しいが、このまま消えるのはもっと惜しいという研究を持つ京都大学の教職員(出品者)が、研究テーマのアイデアやこれまでのデータ、知見や参考書籍などを会場に展示する。
それを受け取り手の他大学の研究者や企業関係者が自由に見て、譲り受けるかどうか判断する。
「ガレージセール」を企画したのは、京都大学際融合教育推進センターの宮野公樹准教授ら。J‐CAST会社ウォッチ編集部の取材に応じた宮野さんは、「大学で定期的に行っている異分野交流会で出会った研究者たちとの雑談で、このアイデアが出ました。退官する教員に自分の研究を引き継ぐ人がいないという悩みが多いと聞き、それなら引き継ぎ者を公募したらよいと思ったのです」と語った。
出品者と受け取り手とが、最初から交渉するのではなく、事務局が仲介。会場内にはパソコンが置かれ、受け取り手は専用サイトに必要事項を入力のうえ、興味を持った研究テーマを申し込む。その後、事務局が出品者に受け取り手の情報を伝え、受諾されれば双方にメールアドレスを伝える。あとは双方で交渉する仕組みだ。
受け取り手は、「アイデアやデータは自由に使っていいが、著作者人格権だけは出品者は放棄しない」という条件に承諾する必要がある。
他分野の研究者がアドバイスし合う京大ならではの試み
ちなみに、著作者の権利は、人格的な利益を保護する著作者人格権と、財産的な利益を保護する著作権(財産権)の2つに分かれる。著作者人格権とは、自分の著作物が不本意な使われ方をしないように拒否したり、「このアイデアは○○氏のもの」と明記したりすることを求めるなど名誉に関するもので、一代限りだ。
「ということは、もし研究がビジネスとして成功しても、企業側は一定の割合でマージン(著作権料)などを支払わなくてもいいということですか」と、驚いて聞くと、
宮野さんは、
「基本的に名誉のみです。詳細はそれぞれの取り決めに依存することになると思います」
と説明した。もし、ひとつの研究に多くの受け取り手が競合したらどうするのだろうか。「誰に託すかは出品者の判断ですね」と宮野さん。
じつは今回のように他大学の研究者まで巻き込んだ「ガレージセール」は初めての試みだが、似たような企画を宮野さんたちは過去2回実施してきた。京都大学内だけで行なうイベント「京大100人論文」がそれ。研究者は日々の研究活動の中で、不得意な部分を誰かに助けてほしいと思うことがある。その場合、自分の研究内容を匿名で学内に展示し、閲覧した研究者がアドバイスやコメントを付箋紙に記入し、事務局がまとめて学内のサイトに公開する。
今回の「ガレージセール」の隣の会場では、この助け合いの仕組みの3回目が開かれる。宮野さんは「『ガレージセール』は、『京大100人論文』のスピンオフ企画という位置づけです。『京大100人論文』のほうは京都の銀行と提携しており、企業とのマッチングも積極的に行っています。まだ、ガレージセールにはどんな研究が出品されるかわかりませんが、京都大学の資源を大いに再活用していただきたいです」と語っていた。