大手ネット証券のマネックス証券は、新サービス「トレードカルテFX」(トレカル)の提供を、2018年1月29日に開始した。
トレカルは、2017年春に現役名人を撃破した将棋の人工知能(AI)「Ponanza」の開発者を擁するHEROZとタッグを組んでつくった、AIが個人の外国為替証拠金取引(FX)のトレーディング技術向上をサポートするサービス。金融とAI、別フィールドで活躍する両社に、「トレカル」について話を聞いた。
AIが今できることは「スピーディーな分析と正確な判断」
金融界は今、金融(finance)とIT技術(technology)を融合した「FinTech(フィンテック)」に湧いている。なかでも、AIはその中核を担い、すでにロボアドバイザーによる市場予測や資産運用、コールセンターでの相談やアドバイス、融資審査や不正送金の検知など、さまざまな業務分野に活用されはじめている。
HEROZ取締役CFOの浅原大輔氏
それらを可能にしたのが、ディープラーニング技術と計算処理能力の飛躍的な進歩だ。HEROZ取締役CFOの浅原大輔氏は、「金融機関はもともと膨大なデータを持っており、AIの活用に適していると考えていました。そこでトレーディングに対する機械学習の可能性を松本社長にプレゼンさせてもらったのです」と、当初から「AI×金融」への興味をもっており、今回の開発に向けマネックス証券へアプローチしたと話す。
HEROZリードエンジニアの山本一成氏が開発した「Ponanza」は名人を打ち負かした将棋AIだが、もちろん、それがそのままFX投資に通用したわけではない。
それについて、同社の最高技術責任者の井口圭一氏は、「現在のAIが得意とするのは、膨大なデータの中から法則性を見つけ、正確に繰り返していくことです。これは将棋でもFXでも同じですが、学習を重ねることにより、正確性はより増していくので、いかに膨大なデータを準備するかが大事になってきます。一方で、『意味の理解』というのはまだまだ難しい領域です。国のトップや金融当局者の発言の『意味』を読み解いて、論理的に結論に結び付けることはまだできません。つまり、AIがマーケットを理解することは、まだまだ難しいのです」と説明する。
開発時の苦労話を聞いたところ、「将棋AIは対戦相手の置かれている状況が把握できるため、何十手先でも確実性高く予測し、それに対する最善の手を指せます。次の手に対して確実性が高いのです。しかしFXでは、他の市場参加者の状況が見えないため、次の瞬間、相場がどう変動するかの不確実性が高いですよね。そんな中で個人のベストとなり得る、人間が目指すことのできる目標を創ることが非常に難解で開発時に苦労した部分です。将棋AIと投資AIの違いとも言えますね」と、浅原氏は言う。