2017年末にかけて、銀行が意外な問題で対応に苦慮する事態が発生した。
それは、「口座凍結」。口座凍結といえば、身近な事例では親が死亡した場合などに、その銀行口座が、相続人などによる正式な手続き終了まで利用できなくなるケースがある。
しかし、問題となったのは「振り込め詐欺救済法」への対応として実施されている口座凍結だ。
振り込め詐欺救済法にある預金口座凍結の「条件」
「振り込め詐欺救済法」の第3条第1項は、「預金口座等に係る取引の停止等の措置」について、以下の1~4のいずれかに該当する場合は、すみやかに口座凍結を実施(預金口座に係る取引の停止等の措置)すると規定している。
1.捜査機関、弁護士会、金融庁および消費生活センターなど公的機関ならびに弁護士、認定司法書士から通報があった場合
2.被害者から被害の申し出があり、振り込みが行われたことが確認でき、他の取引の状況や口座名義人との連絡状況から、直ちに口座凍結を行う必要がある場合
3.口座が振り込め詐欺等の犯罪に利用されているとの疑いがある、または口座が振り込め詐欺等の犯罪に利用される可能性があるとの情報提供があり、以下のいずれかに該当するとき。
(1)名義人に電話で連絡し、名義人本人から口座を貸与・売却した、紛失した、口座開設の覚えがないとの連絡が取れた場合
(2)複数回・異なる時間帯に名義人に電話で連絡したが、連絡が取れなかった場合
(3)一定期間内に通常の生活口座取引と異なる入出金、または過去の履歴と比較すると異常な入出金が発生している場合
4.本人確認書類の偽造や変造が発覚した場合
この1~4に該当する場合には、銀行口座の凍結は、口座への入出金双方の停止(解約を含む)を行う。また、僚店(同じ銀行の他の支店)を含め、同一名義人の口座があることが判明した場合には、利用実態を確認のうえ、 必要がある場合には同様の措置を実施することになっている。
さらに、1~4に該当しないケースでも、疑いがあると認められる場合には、個別事例に即して柔軟かつ適切に措置を講ずるよう努めることが求められている。
金融庁では、「各金融機関は、振り込め詐欺等の犯罪被害の拡大防止の観点から、警察庁から凍結口座名義人リストが提供されており、これを活用して新規口座開設の謝絶や既存口座の凍結等の判断を行っている」との理解だ。
犯罪に使われた口座の「名義人」は被害者!
ところが、この「銀行口座の凍結」が思わぬ事態を引き起こした。
「通帳やキャッシュカードを紛失・盗難されて、預金口座を犯罪に悪用された結果、口座名義人の指名が口座凍結リストに掲載され、そのため、別口座の利用もできなくなり、生活に支障をきたす事例が発生している」との苦情が多数、金融庁などに寄せられたのだ。
つまり、犯罪被害者なのに、犯罪に使われた口座の名義人ということで、当該口座以外の口座を凍結されてしまったというのだ。
これに対して、金融庁は口座凍結の手続き、運用、口座凍結リストの運用などについて全国銀行協会(全銀協)などに検討を要請した。
じつは、2017年6月に全銀協が凍結リストの運用に係る事務取扱要領を改正。会員銀行の判断に柔軟性を持たせたのだが、凍結リストの具体的な運用基準を策定していない銀行では、現場で対応に苦慮するケースや、銀行によって対応に大きなバラツキが出てしまった。
そこで、金融庁は事務取扱要領の見直しを実効性のあるものにするためには、名義人が凍結リストと合致した場合に、現場がどのような点を確認すればよいのか、業界として具体的な基準・事例を示すことが必要だと全銀協に申し入れた。
金融庁では、たとえば口座利用の目的が給与振込や公共料金の引き落としなどの生活利用である場合には、新規口座開設の謝絶や口座凍結を行わないことを明確にするなどの工夫が必要だと指摘した。
全銀協では口座凍結のあり方について、具体的な事例を含め、考え方の統一を図っているものの、ことは犯罪に絡むだけに銀行ごとの自由裁量で判断するのはかなり難しいもよう。確かに犯罪を封じ込めることも重要だが、銀行口座は重要な生活インフラの一部であり、被害者への十分な配慮が必要だ。(鷲尾香一)