酔っぱらって記憶をなくしたことは、人生で1度もない。お酒に飲まれて、健康を害するのがイヤなのである。
そんな私が、先日、生まれて初めて「テキーラショット」なるものを経験した。数名で飲んでいる際、たまたまそのうちの1人がテキーラ好きで、「みんなでやろう」となったのだ。おちょこサイズの小さなグラスに、テキーラを人数分注ぎ、皆で一斉にグイっといく「アレ」である。場所は赤坂。夜の怪しげな雰囲気も相まって、場はテキーラ祭りの様相を帯びてきた。
GACKTさんのニュースを思い出して戦慄する
はあ!? テキーラショット!?
私はひそかに狼狽した。以前、インターネットニュースで、歌手のGACKTさんが誕生日に「テキーラ祭り」を開催し、大勢が一気飲みで倒れたという記事を見たからだ(「GACKT、テキーラ『一気飲み』動画に心配の声 本人『やめてとかいうのやめてくれ』」J‐CASTニュース 2017年7月13日付)。
彼は、SNSで「去年のパーティーではかなりの数の仲間が病院に運ばれることとなった」などと発言し、「危険すぎる」「大丈夫か?」と、ネットで賛否両論を巻き起こした。
GACKTさんは、筋トレや食事制限など、ストイックな生活を送っているイメージがあり、すごい人だと思う。が、六本木で「テキーラ祭り」とは、いかにも「チャラい」イメージがあるし、遊んでそうだし、なんだか「怖い」。
あのニュースを見て以来、私はテキーラに対し、悪いイメージしかなかったのである。
テキーラショットなんて絶対イヤ!
そのときは、私だけでなく、飲み会にいた女子全員が「テキーラ......? 正直ビミョー」という顔をしたと思う。
だが、ショットグラスは粛々と運ばれてくる。濃い茶色の液体がなみなみと注がれ、ライムが並べられた。もう逃げられない。
「飲んだあとにライムを食べると、テキーラの味が消えるんだよ」
それにしても、このライムは一体なんだろうか。私は、横の女友達に「これ、いつ食べるの?」と聞いた。「飲んだあとにライムを食べると、テキーラの味が口から消えるんだよ」。女友達は、31歳にしてそんなことも知らない私に優しく教えてくれる。
「へぇ......(テキーラってそんなにマズイのか......)」と不安になったのもつかの間、
「お疲れ様で~す!!!」という歓声とともに、カンパイの音頭が取られ、全員がノリでテキーラを飲み干した。小さなグラスだから、一瞬で飲み終えてしまう。ぶわっとした香りが口中に広がった。あれ? 意外と行けるな......酔っ払う感じもない。
その後、誰彼ともなく皿のライムを手に取り、皆で頬張る。モグモグ。すると確かに、テキーラの苦味や臭みが口の中から消えていくではないか。いや~、ライム、すごいなぁ。
しかし、私はモグモグしながら、「口中の苦味を柑橘類で消してまで味わうお酒ってなに!?」という疑問でいっぱいだった。
ライムを食べている間は皆必死で、妙に静かなのである。「うぇーい!」と盛り上がった10秒前とは打って変わって静かなテーブルを、私は冷静な目で見つめていた。なんだこれ? 楽しいか?
冷静さを打ち消すため、あえてもう3杯ほど、テキーラショットをやってみた。すると、ほろ酔いになって少しずつ気持ちがよくなってくる。ああ、そうか。テキーラショットを繰り返すのは、あの沈黙の「ライムタイム」の気まずさを麻痺させるためなのか! って違うか...... と一人ツッコむと同時に、妙に納得して夜中の赤坂をあとにした。(北条かや)