「飲んだあとにライムを食べると、テキーラの味が消えるんだよ」
それにしても、このライムは一体なんだろうか。私は、横の女友達に「これ、いつ食べるの?」と聞いた。「飲んだあとにライムを食べると、テキーラの味が口から消えるんだよ」。女友達は、31歳にしてそんなことも知らない私に優しく教えてくれる。
「へぇ......(テキーラってそんなにマズイのか......)」と不安になったのもつかの間、
「お疲れ様で~す!!!」という歓声とともに、カンパイの音頭が取られ、全員がノリでテキーラを飲み干した。小さなグラスだから、一瞬で飲み終えてしまう。ぶわっとした香りが口中に広がった。あれ? 意外と行けるな......酔っ払う感じもない。
その後、誰彼ともなく皿のライムを手に取り、皆で頬張る。モグモグ。すると確かに、テキーラの苦味や臭みが口の中から消えていくではないか。いや~、ライム、すごいなぁ。
しかし、私はモグモグしながら、「口中の苦味を柑橘類で消してまで味わうお酒ってなに!?」という疑問でいっぱいだった。
ライムを食べている間は皆必死で、妙に静かなのである。「うぇーい!」と盛り上がった10秒前とは打って変わって静かなテーブルを、私は冷静な目で見つめていた。なんだこれ? 楽しいか?
冷静さを打ち消すため、あえてもう3杯ほど、テキーラショットをやってみた。すると、ほろ酔いになって少しずつ気持ちがよくなってくる。ああ、そうか。テキーラショットを繰り返すのは、あの沈黙の「ライムタイム」の気まずさを麻痺させるためなのか! って違うか...... と一人ツッコむと同時に、妙に納得して夜中の赤坂をあとにした。(北条かや)