先代の見よう見まねで引き継いだけど......
2番目は、よくぞ言ってくれましたという感じです。
オーナー社長にありがちなのは、リーダーシップには長けていながら、フォロワーシップが欠如している、そんなパターンです。柳井氏のような実質創業者も含めた創業社長はリーダーシップ中心のマネジメントでなんとかなるケースも多いのですが、後継者となるとそうもいかない。そんな点を的確に指摘した表現かと思います。
後継者は、まずは一般社員として十分な社員目線をつけさせてから経営陣に引き上げる、そんなやり方が理想ということになるのでしょう。
早世した父の跡を継いだ中堅建設業I社では、現場経験がほとんどない二代目が職人の世界を理解できずに、見よう見まねに父を引き継いだワンマン姿勢で社員から総スカンにあいました。先代の右腕であった常務が、その収拾に苦労して嘆いていた姿が忘れられません。
「実績が伴わない高圧的なリーダーシップでは、現場は着いてこられません。親族の後継であっても先代と人格は別ですから、たとえ同じことを息子が言っても、納得性に欠けてしまいます。私がそのフォロー役をしていますが、やはり限界があります」
I社は相次ぐ人材流出で業績が低迷。大手資本の傘下に入ることになりました。
3番目は、意外に知られていないことですが、同族の後継者に欠如している、ありがちな問題です。自身で起業したわけではないので事業投資という感覚が身についておらず、投資や借り入れリスクばかりが先立って見えてしまうケースです。
結果的に、リスクを伴う投資には尻込みしてしまい、先代が築いた財産を徐々に食いつぶしていくケースです。
住宅建材商社のO社のU社長は、前社長である兄を急病で亡くし、直後に会長である父を亡くして、会社経営のなんたるかも知らぬまま、予定外に社長のお鉢が回ってきました。
事業投資もせず、既存の借り入れも保証人という肩書きが怖くてすべて返済し、内部留保を食いつぶしました。結局、かろうじて株主である親戚一同で資産の山分けができる段階で廃業に。かわいそうなのは、長年勤めた社員たちでした。
柳井社長が「今年こそは」との思いからか明らかにした後継者づくり条件。実際どのような方が指名されるのか、興味の尽きないところではあります。同時に、世に星の数ほどいるとも言われる後継づくりを先延ばししてきた経営者の皆さん、今年こそ実現の年になるよう柳井氏の話を、是非とも参考にしていただければと思います。(大関暁夫)