東京弁護士会は「過払い金返還請求」に関する景品表示法違反(有利誤認)で、弁護士法人のアディーレ法律事務所(東京都)を業務停止2か月、元代表の石丸幸人弁護士を3か月の懲戒処分にすると、2017年10月11日に発表した。
アディーレ法律事務所は2010年10月~15年8月に、当時代表だった石丸弁護士の指示を受け、「当事務所に依頼された方は着手金無料」といった広告などをホームページに掲載。対象期間は1か月間としていたが、実際には日付を更新して掲載し続け、消費者庁は、16年2月に景品表示法違反に基づき再発防止を求める措置命令を出していた。
過払い金返還に群がった「士業」の面々
アディーレ法律事務所といえば、「過払い金返還請求」のテレビCMを派手に展開し、知名度は群を抜いていた。この事務所には185人もの弁護士が所属しており、事業所も全国に86か所を展開していた。
過払い金返還請求とは、消費者金融などからの借り入れが、利息制限法を超えた利息で返済していた場合に、まさしく払い過ぎた利息の返還を求めることをいう。
しかし、過払い金返還請求で懐を潤していた弁護士は、アディーレ法律事務所だけではない。欧米のように訴訟社会ではない日本では、企業弁護士(企業と顧問契約を結んでいる弁護士)を除けば、想像以上に弁護士の仕事は少ない。そのため、一部の弁護士が収入源としていたのが、「過払い金返還請求」だった。
さらに、この過払い金返還請求を「生業」としたのは、弁護士だけではない。司法書士、行政書士といったいわゆる「士業」と呼ばれる職業にある人達がこぞって取り扱った。
司法書士や行政書士は、弁護士と提携することで「過払い金返還請求」の顧客窓口となり、顧客からの手数料を手に入れた。その中には、顧客が法律に無知なことを利用し、法律で定められた以上の手数料を得ている「士業」が多く存在する。
「過去に借金をしたことのある人、借金をしている人はお気軽にご連絡を。5分ほどで過払い金が戻るかを試算します」といった、うたい文句は、現在でもテレビだけではなく、ラジオや雑誌などの多くのマス媒体に露出している。
おいしい? 相続問題
とはいえ、「過払い金返還請求」は下火になりつつある。
利息制限法や出資法という関連法に対する行政指導などが行われ、貸出金利が正常化すると過払いの問題はなくなる。過払い金請求には10年の時効がある。つまり、時が経つほどに過払い金請求に該当する案件は減少するのだ。
こうした背景から、「今が書き入れ時」とばかりに、アディーレ法律事務所だけでなく、多くの弁護士が過払い金請求に手を出した。そして、その過当競争が、「アディーレ法律事務所問題」のような弁護士にはあってはならない問題を引き起こした。
しかし、すでに過払い金返還請求はピークを過ぎている。過払い金請求で、「濡れ手で粟」のような儲けをあげた弁護士は、今後、何を糧としていくのか――。それについて、民事を専門とする、ある弁護士は「相続問題」と言い切っている。
高齢化が進んでいく中で、「相続問題」は確実に増加してきている。さらに、相続人そのものが高齢化し、認知症などを患っていることも多い。こうした状況のなか、2018年に民法などの相続関係(相続法)が改正され、遺産分割などに関して新たな法律ができる予定だ。「それこそが、過払い金返還請求が下火になったあとの、弁護士の『飯のタネ』になっていくだろう」というのだ。
前出の弁護士は、「相続も手続きが複雑で、弁護士が関与できる範囲が大きい。今後は過払い金返還請求でのアディーレ法律事務所のように、相続問題の専門家をうたう弁護士事務所が出てくるだろう」と指摘する。半面、相続問題は税理士事務所なども一枚噛んでいるから、そうは容易くない市場でもある。
相続問題を抱える可能性がある方々は、くれぐれもご注意を! (鷲尾香一)