人材や技術を、長い目で育てていく
―― 日本企業らしさとは、どのようなことでしょうか。
大関氏「モノづくりの現場に合った職人気質。いわば、クルマのハンドルの『遊び』のようなものではないでしょうか。管理強化が正解ではありません。難しいところもあると思いますが、現場主義に立ち返ることも大事ではないでしょうか。
たとえば、東京・大田区の金型工場の技術が、世界に通用するという話がありますよね。『下町ロケット』(池井戸潤・著)の世界です。マネしたくてもマネできない、職人の技術をもっているわけですが、それは厳しい管理の下で培われたわけではありません。そこには目先ではなく、将来を見据えた方針や戦略があったはずです。
参考になるのは、北海道日本ハムファイターズ・栗山英樹監督の大谷翔平選手の起用法です。『二刀流』を認め、2016年は投げて15勝、打っても3割、本塁打20本を達成しました。大谷選手は、17年はケガをして休養を取りましたが、そのとき、栗山監督は目先の1勝にとらわれることなく無理使いしませんでした。『打つだけなら、使える』などと、その起用法には批判もありましたが、17年にパンクせず、18年は大リーグでその姿を見られるのは、栗山監督のおかげともいえます。日本ハム球団も大谷選手の移籍によって大きな利益を得ています。いまの日本企業に必要なのは、これに学ぶような、いたずらに目先の利益を追いかけない、そういった視点をもったマネジメント力ではないでしょうか。大谷選手は、きっと大活躍しますよ」
―― 企業の業績については、どうのようにみていますか。
大関氏「2017年の企業業績は総じて、よかったといえます。なかでも、輸出企業を中心とした大企業が好調だったのは、円安の恩恵です。しかし、周知のように下請け企業の業績は追いついていません。金融面では、現状はメガバンク(三菱UFJフィナンシャル・グループ)が収益の4割を海外で稼ぐ時代ですから、地域の中小企業はもっと疲弊するでしょう。多くの中小企業の潤わないと消費は増えませんし、日本経済も回復したとは言えません。2018年、政府にはここを手当てしてもらいたいと思います。
一方、中小企業にも、もっと考えてもらいたいことがあります。その一つが、アライアンスです。たとえば、銀行などはその最たるものですが、銀行はいまだに自前主義を尊びます。与信情報や個人情報の保護などを考えてのことであるのはわかります。しかし、もう銀行が単独で、新たな業務やサービスを開発できる時代ではありません。フィンテックがいい例です。IT技術がなければ、もはや業務がうまく回らなくなるかもしれない時代なのです。中小企業が置かれている立場も同じと考えます。自分たちの技術を見直し、優れた技術は伸ばし、足りないモノは他の企業と協力しながら、必要な技術やアイデアを取り入れていくことを考えたほうがいいと思います」
プロフィール
大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業「青山カレー工房」「熊谷かれーぱん」)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。
近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。 連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代の洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。