2017年は円安・株高の恩恵を受けて景気がよくなった、生活が豊かになったと感じている人も少なくないかもしれない。しかし、一方でそう感じていない人も多くいる。円安の影響で輸入品をはじめ物価は一部で上昇。それに人手不足などによる人件費の高騰が追い討ちをかけて、企業の業績も二極化しているようだ。
なかなか増えない給料に、2018年の私たちの生活はどうなるのか――。経済ジャーナリストの荻原博子氏に予測してもらった。
日本はまだ「デフレ」の渦中にある
――2018年、景気はよくなりますか。
荻原博子氏「2018年は景気が悪くなりますよ」
――どうしてでしょう?
荻原氏「2017年は、景気がよかったといえます。その理由は、中国経済がよかったから。ご承知のように、中国がよくなると世界経済もよくなる傾向にあります。2018年は、昨年と変わらないようにみえますが、ここが違います。習近平体制が盤石となり、経済的には引き締め方向に動きますから、世界的に景気にブレーキがかかりはじめます。それに尽きます。加えて、日本は不動産不況が重なる恐れがあります」
――バブル期を彷彿とさせる株価高騰が伝えられるなど、景気は回復しているように思います。その一方で、どこか実感が湧かないという人は少なくありません。現状をどのように受けとめればいいのでしょうか。
荻原氏「まず、現状はデフレ経済が続いていることを、しっかり認識すべきです。正しくは私たちの生活がデフレから抜け出せていないと言ったほうがいいでしょう。つまり、日本企業の財務体質はピカピカなんですが、私たちの家計は『火の車』であるということ。日本の企業はバブル期に借金漬けとなり、1990年代後半の金融危機後の約20年間は不良債権を処分して、また借金を返済し、財務体質を健全化しました。デフレ不況のなか、コツコツと蓄えを増やしてきました。それが今、たくさんの内部留保として積み上がっているワケです。
ところが、家計は違います。まだデフレの中にいるんです。蓄えを増やしたくても、収入は増えません。それなのに、資産づくりなどと言って住宅ローンなどの借金を背負わせたり、子育てに多くの教育費がかかったりしています。企業はお金を使わず、ピカピカ。一方、家計はあれやこれやとお金を使わされ、手元にお金がないのですから、『景気がいい』実感がないのは当たり前のことですよね」
上がらない物価、アベノミクス政策は失敗!
――「デフレ」というと物価が上がらない状況ですよね。でも、モノの値段は上がっています。収入が増えないことが一番の原因ではないのですか。
荻原氏「いやいや、物価は下がっていますよ。たとえば、携帯電話の料金をみてください。値下げしていますよね。生鮮食料品などは、その時の気候変動などの影響がありますから、今年は長雨の影響もあって値段が上がっていますが、さまざまなサービスは値下げの傾向にあります。だから、給料が上がらなくても、どうにかやり繰りして生活できているワケです。もちろん、賃金が上がらないこともありますが、最大の要因はデフレの状態が続いていることです」
――そう言われると、日本銀行は「デフレ脱却」「消費者物価2%上昇」の達成見通しを、もう6回も延期していますね。
荻原氏「ええ。だから、アベノミクスは失敗なんです。覚えていますか? そもそもアベノミクスはデフレ脱却が『1丁目1番地』の政策だったんですよ。ここができていないのだから、いくら数字のうえで雇用が増えたとか、賃金が上がっているとか、言ってもダメなんです。その一方で、現実的には個人に負担がかかる社会保険料や税金は上がっているじゃないですか。デフレを脱却して景気がよくなれば、賃金も上がりますが、現状はそうでないんです」.
――では、景気はいつ回復するのでしょう。
荻原氏「日銀がデフレ脱却を宣言する日までは回復しません」
家族みんなで稼ぐ力をアップする!
――デフレからは脱却できない。しかも2018年は景気が悪くなる。そうなると、どのように生活を防衛すればいいのでしょうか。
荻原氏「まず、デフレから脱却していないことを認識することです。そうすれば、おのずとやることが見えてきます。それは、借金を返済すること。少しでも(借金を)減らすのです。最近はカードローンが問題になっていますが、当然のことです。マイナス金利ですから、預金が増えることなどありません。カードローンの金利は年14%。一方の預金金利は0.001%。その差1万4000倍ですよ。こんなに負担があるんですから、負債が膨らむのは一目瞭然です。とにかく、デフレの中では借金を減らす。つみたてNISAとか、株式とか、投資なんか、もってのほか。デフレの中では現金を増やすのが鉄則です」
――収入アップの方策はありますか。
荻原氏「もう一つの生活防衛は、夫婦共稼ぎすること『ダブル・イン・カム』です。そうやって現金を稼ぐ。なかでも、教育費はお金がかかります。できれば、子どもも働けるのであれば、働いたほうがいい。じつは今、大学を中退する人も多いんです。お金が続かない。奨学金で通っても返す充てがない。アルバイトをやっていては単位が取れない。なぜ、大学に進学するのか、考えるべきです。たとえば、料理人になる、相撲取りになる、中学を卒業して、その道に進む子どもいます。お金がなければ、子育てもできない。それは現実です。
すでに共稼ぎ世帯のほうが多くなっています。それは女性の意識が社会進出に向いたこともありますが、デフレだったから進んだんですよ。ニートの子どもにも、しっかり働いてもらって、家族みんなで稼ぐことです」
プロフィール
荻原 博子氏(おぎわら・ひろこ)
経済ジャーナリスト
経済事務所勤務後、1982年から、フリーの経済ジャーナリストとしてビジネス記事を中心として執筆活動を始める。1988年に創刊された女性誌hanako(マガジンハウス)で女性向けのお金の記事の連載を開始。テレビ番組のコメンテーターや解説者、パネリストとしても活動している。
また、近著に「10年後破綻する人、幸福な人」「投資なんか、おやめなさい」(いずれも、新潮新書)「老前破産 年金支給70歳時代のお金サバイバル」(朝日新書、2018年1月発売予定)がある。長野県出身、63歳。