少子高齢化の進展によって、わが国では将来の年金不安が高まっています。書店へ行くと「年金は破たんする」といった類の本がうず高く積まれています。本当に年金は破たんするのでしょうか――。
世界を見渡すと、年金が破たんするといっている学者は、日本を除くとじつはほとんどいないのです。
少子高齢化は「消費税」と「マイナンバー」が社会インフラ
説明してみましょう。現在の公的年金の実態をみると、35兆円くらいの社会保険料が振り込まれ、12兆円ほど国税が投入され(基礎年金の2分の1は国税で、という法律改正がなされています。以前は3分の1でした)、過去のたまりが150兆円ほどあって、50兆円ほどの年金が支払われています。
要するに、市民からお金を集めて、必要な人に年金として給付しているわけですから、これは政府の仕組みそのもので、破たんするはずがないのです。
高齢化で年金給付が増えれば、マイナンバーを活用して資産や所得のある人を支給対象から外していけばいいのです。あるいは、国税の投入を3分の2にしてもいいですし、社会保険料を増額してもいいでしょう。破たんすると騒いでいる人は、少子高齢化で若者が減少し、高齢者が増えることを根拠にしています。この考えの根本には若者が高齢者を支えるのが当然(Young supporting old)という古い価値観が横たわっています。
少子高齢化の先進国・欧州では、20年前にこの考えは消え去っています。代わりに、All supporting all、社会を、年齢を問わずみんなで支え、たとえばシングルマザーなどの本当に困っている人に給付を集中するという考え方です。
若者が高齢者を支えるのであれば、若者から所得税でお金を集め、住民票で年齢をチェックしてシルバーパスを配ればそれで足りるのです。でも、みんなで社会を支えるとなれば、消費税を根幹に据えるしかないし、困っている人に給付を集中しようとすれば、マイナンバーを整備するしかないのです。
つまり、少子高齢化とは、All supporting all、消費税とマイナンバーが社会のインフラになる社会へのパラダイムシフトなのです。
50歳を過ぎると、仕事へのやる気を失うのが一般的?
このように考えれば、働きたい人は年齢フリーでいつまでも働けばいいのです。つまり、定年を止めてしまえばいいわけです。そのためには、手順を踏む必要があります。
まずは職場で年功序列の働き方をやめることです。成果主義に切り替えて、実力中心の職場にすることです。大企業では、50歳を超えたビジネスパーソンはみな、途端に仕事へのやる気を失うといわれています。当たり前です。役職定年が53~55歳、60歳になれば定年になるのですから。やる気など出るはずがありません。
高齢者のやる気を引き出すには、成果主義であるべきです。ライフネット生命には定年がありません。もちろん、年功序列もありません。僕もこの春、取締役を退きましたが、後任は30代の2人の取締役です。年功がないと若手も活躍できるのです。 たとえば、病院では高給の名医が相談やアドバイスを担当。手術は若手が引き受けます。これが、ダイバー時代の働き方の好例です。
高齢者が自由に働き方や生き方を選べる時代
こういうと、シルバー層の人たちは「いつまで働かせるんだ」と。あるいは若い人からは「老害」などと揶揄され、邪魔者扱いされるのがオチ、そんなふうに考えてしまいがち。しかし、それは年功の組織に縛られることを前提にして考えているからです。
生き方を、自由に選べる。自由に働き方が設計できると考えみたら、どうでしょうか。組織は、従業員が適材適所で働くことができれば、みんなが潤うのです。
では、働き続けるために必要なことはなんでしょう。そのためには、進化する社会に取り残されないようにすることが大切。いまやっている仕事に真剣に取り組むことが重要です。仕事を通じて知識が広がり、勉強し続けることができます。人付き合いも広がっていきます。学び直すこともいいでしょう。それにより、さらに実力がつきますし、知識に磨きがかかってくるのです。
仕事を続けていれば、60代、70代になっても、社会に取り残されることはありません。しかし仕事を辞めたら、30代、40代でも社会から取り残されてしまいます。年齢ではないのです。働き続けることが最大の自己投資になるのです。
そのために大切なのが、健康です。からだが健康じゃないと全力で働けません。「健康のための投資」がものすごく大事なのです。「働きすぎ」や「がんばりすぎ」で、健康を損ない、結果的に仕事を辞めてしまう負のスパイラルに陥ってしまわないようにする必要があります。健康に働き続けるためにお金とエネルギーを使う。そうすると、長く楽しく元気で働くことができます。生涯収入も増えることになります。高齢化社会に備えるとは、決してお金を貯めることではありません。働き続けることが一番のです。(出口治明)