2018年末には「株価3万円」到達
―― マネックス証券で「株価3万円」の予測を発表されたときに、「日本株の上昇が国民全体にプラスになる」と指摘されました。具体的には、どのようなことなのでしょうか。
広木氏「たとえば、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のポートフォリオに変化がありました。GPIFは2014年の配分比率変更を経て、日本国債の比率を小さくして、日本株の比率を高めています。GPIFのような影響力が高いプレイヤーが日本株の保有比率を増やしていくと、大きくふたつの経路で影響があります。
ひとつは保有する企業のコーポレートガバナンスが強化され、それらの企業価値が高まる。もうひとつは他の年金がGPIFにならえで同様の資産構成に変化させる。すなわち株式の保有比率が高まる。日本国民は直接、株式や株式投信を保有していなくても、年金や生命保険に託しているおカネは株式で運用されている。結果的に日本企業の企業価値が高まり、日本株が上昇すると国民全体でじつは恩恵を受けるということです。
経済が株価を決めますが、逆も真なりで、株価が経済をけん引することもある。高い株価を使ってM&Aをするなど米国では日常茶飯事です。そうして企業活動が活発になり、経済が活性化されるという面をあります。
すなわち景気がよくなれば、一般のひとにとっても就職がしやすくなったり所得があがったりするかもしれない。それも株価上昇が国民全体にプラスという意味です。とにかく株が上がって困ることはひとつもありません。バブルを心配するのは、それが弾けると大変なことになるからで、すなわち株価が下がるのが困る。上がって困ることはないんです。
一般に、日本人は金融リテラシーが低いといわれていますが、そんなことはありません。日本の家計が株式を買ってこなかったのは、単純に株価が上がらなかったためであり、デフレのときは預金のパフォーマンスが一番高かったからです。そのことを、身をもって実践してきただけで、株価が上がれば、おのずと株式に資金がシフトしていくと考えています」
―― とはいえ、「3万円」というと、足もとが2万3000円ほどですから、あと7000円もの上昇が必要になります。まだまだ大きな開きがある印象です。
広木氏「『ゴルディロックス(適温経済)』とも呼ばれる世界的な、現在の好調な経済状況は、少なくとも向こう1年から1年半は継続する可能性が高いでしょう。また、アベノミクス政策は2018年も株価上昇を後押しするはずです。現在、安倍政権は企業に対して内部留保を雇用や賃金に充てるよう促していますし、設備投資を進める企業には減税で応じるなどアメとムチを使って、うまく進めようとしています。一方の企業も、ワークライフバランスや、人工知能(AI)やIoT(モノのインターネット)などの技術と人との融合で生産性を高めています。キャッシュフローを生む、資産を生み出す経営への転換を促しているわけで、『人づくり改革』との両輪が企業価値をさらに高めていきます」
―― 株価の下落要因はないのでしょうか。
広木氏「北朝鮮情勢や中東の混乱など地政学リスクへの警戒がくすぶってはいますが、正直それほど大きく崩れる要因とは思えません。強いて言えば、ボラティリティの変化に注意すること。ボラティリティはマーケットの警鐘です。つまり、『油断と楽観』が最大の敵になります」
プロフィール
広木隆(ひろき・たかし)
マネックス証券 チーフストラテジスト
国内系や外資系、投信投資顧問、ヘッジファンドなどさまざまな運用機関でファンドマネージャーなどを歴任。30年にわたり投資の最前線に携わる。2010年9月から現職。青山学院大学大学院非常勤講師。テレビ東京「ニュースモーニングサテライト」、BSジャパン「日経プラス10」、日経CNBC「朝エクスプレス」、ラジオNIKKEI、ストックボイスなど、メディアへの出演も多数。著書に「9割の負け組から脱出する投資の思考術」「ストラテジストにさよならを21世紀の株式投資論」「勝てるROE投資術」がある。