【2018年を読む】サラリーマン受難、負担増に格差拡大「デキる」人は社外へ飛び出す!(城繁幸)

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   2018年の「雇用」は、さまざまな点で節目の年となるだろう。

   筆者は、大きく以下の3つのトレンドを予測している。

  • ますます終身雇用は薄まる……
    ますます終身雇用は薄まる……
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トンデモ「5年ルール」の発動で雇い止め頻発

1.正社員と非正規雇用の格差拡大と固定化

   2018年は、2013年施行の改正労働契約法における「5年ルール」がいよいよ発動される年にあたる。これは有期雇用を5年継続した場合に、本人が希望すれば期間の定めのない無期雇用に転換せねばならないというルールで、景気の波に応じて組織が雇用調整することが不可能になってしまう「トンデモルール」だ。

   だから、それを見越して企業が年末~来春にかけ雇い止めが頻発するだろう。すでにその兆候は表れ始めている。

   特に、有期の研究職の多い大学組織に破滅的な悪影響を与えることになると、筆者は予測している。能力のピークアウトした人間が定年まで保護される一方で、優秀な若手は数年ごとに漂流するはめになるから、もうマトモな人材は大学などに集まらなくなるだろう。

※ 参考リンク:大手自動車も期間従業員も誰も幸せにしない5年ルール

2. サラリーマンの負担が大幅に増える

   ふだん、給与明細を見ないサラリーマン諸兄はご存じないかもしれないが、皆さんの社会保険料の天引きは、過去10年ほどほぼ一貫して上がり続けている。

   世の中にはリタイアした高齢者やニート、ヤクザからも徴集できる消費税という素晴らしい仕組みがあるのだが、なぜかそっちはほぼ据え置きでサラリーマンが肩代わりさせられている構図だ(ネットではとにかく「消費税引き上げ反対!」という声の大きな方々がいるが、ああいうのはたいていニートかフリーターだろう)。

   来年以降、さらに教育無償化コスト3000億円が重くのしかかることになる。

   グラフ1を見ても明らかなように、実際に企業が従業員一人当たりに負担するコストは横バイだから、それは昇給抑制やボーナスカットという形でサラリーマンが負担することになるはずだ。

給与は賃金構造基本統計調査の現金給与と年間賞与その他より作成。社会保険料については年度の途中で率が変わった場合は新しい率を適用。健康保険については協会けんぽ(東京都)の保険料を使用。なお、実際は4~6月の標準報酬月額が保険料の基準に用いられるので、あくまでも目安である。
給与は賃金構造基本統計調査の現金給与と年間賞与その他より作成。社会保険料については年度の途中で率が変わった場合は新しい率を適用。健康保険については協会けんぽ(東京都)の保険料を使用。なお、実際は4~6月の標準報酬月額が保険料の基準に用いられるので、あくまでも目安である。

   さらに言えば、来年から高齢者医療への拠出金に苦しむ健保組合が保険料引き上げに踏み切るだろうから、大企業のサラリーマンの天引きはさらに一段増えるだろう。ちなみに、すでに健保組合の健康保険料の4割超は高齢者医療に回されている状況だ。

※ 参考リンク:サラリーマンが目先のベアより社会保障の抜本改革を要求すべき理由

「滅私奉公と引き換えの安定」はいらない!?

3. 専門性の高い人材とゼネラリストの格差も拡大

   サラリーマンの負担が大幅に増える影響もあって、正社員の中には自ら終身雇用の肩書を捨てる人間も増えるだろう。じつは数年前から大企業のエンジニアでありながら、退職して技術系の派遣社員として働く人材がぼちぼち出現している。

   たとえば、正社員で年収700万円貰っていた人材なら、派遣社員なら年収1000万円超も十分視野に入るためだ。

   差額の300万円は「自身が定年まで雇用してもらうための保険料」「仕事のできない同僚を雇い続けるためのコスト」などで、筆者は「終身雇用コスト」と呼んでいるものだ。要するに、その終身雇用コストを負担するのがバカらしく思う人たちがさらに増えることになるだろう。

   同じトレンドは新卒採用にも表れている。2017年は「初任給40万円の中国企業、ファーウェイ」が話題となったが、同様に新人に600万円以上の初任給を支給する日系の新興企業は複数あり、すでに東京大学や東京工業大学といった理工系エリート学生の人気就職先となっている。

   こうした新しいキャリアパスを選択できるのは、労働市場で引き合いのある高い専門性を持つ人材だけだ。そうした専門性を持つスペシャリストと、従来どおり会社に縛り付けられるゼネラリストの間でも、格差は拡大するだろう。

   まとめると、全体として正社員と非正規雇用労働者の格差は拡大するものの、正社員の間でも会社にモノが言える人材と言えない人材の間で格差は開き、終身雇用色は徐々に薄まっていくのではないか。

   とりわけ「『総合職』という身分に入って滅私奉公と引き換えに安定を得る」という文系サラリーマン的な生き方は急速に魅力を失いつつあるように見える。

   厚生労働省の調査によると、一般職採用者に占める男子の割合は、2009年の8.1%から2014年の17.9%と着実に増加傾向にあるのがわかる(2014年度コース別雇用管理制度の実施・指導状況)。ともすれば、草食化という文脈で語られがちなトレンドではあるが、筆者には柔軟性のある若い世代だからこそ、上記のような地殻変動に対して敏感に反応しているように思えてならない。

【2018年予測】
・5年ルールで正規と非正規の格差が拡大する
・サラリーマンの負担が大幅に増える
・一方、専門性の高い人材とゼネラリストの格差も拡大

   これは正規と非正規はあまり関係なく、むしろ「デキる」人材は終身雇用の外に飛び出す。

   一定のスキルを身につけた後は、雇用形態にこだわらず労働市場を積極的に活用する生き方が台頭するのではないか。(城繁幸)

人事コンサルティング「Joe's Labo」代表。1973年生まれ。東京大学法学部卒業後、富士通入社。2004年独立。人事制度、採用等の各種雇用問題において、「若者の視点」を取り入れたユニークな意見を各種経済誌やメディアで発信し続けている。06年に出版した『若者はなぜ3年で辞めるのか?』は2、30代ビジネスパーソンの強い支持を受け、40万部を超えるベストセラーに。08年発売の続編『3年で辞めた若者はどこへ行ったのか-アウトサイダーの時代』も15万部を越えるヒット。ブログ:Joe's Labo
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