円安・株高のアベノミクスにけん引されて好調だった2017年の日本経済。とくに9月の衆院解散後のうなぎ昇り。東京株式市場の日経平均株価は、企業の好調な業績を反映して、11月9日には2万3382円15銭を付けて、1989年のバブル最高値(3万8915円)の半値まで戻した。
1年のうち約300日を東京や地方都市での講演活動に充て、日本全国を往訪している第一生命経済研究所の首席エコノミスト、嶌峰義清氏に「2018年の日本経済」の見通しを聞いた。
好調な企業業績がけん引
―― 東京の一極集中が進んでいます。東京と地方都市の現状について、言われているような地域格差は、ますます広がっているのでしょうか。
嶌峰義清氏「どの地方都市を訪ねても、県庁周辺の飲食街も夜遅くまで開いているお店はありますが、それはわずかになりましたね。要因のひとつは、住民が高齢化していることです。地方でも中核都市ではマンションの進出が目立っています。東京の一極集中が進んでいるように、地方でも利便性のよい、県庁所在地に人口が集中していて、周辺地域の過疎化が進んでいます。とはいえ、高齢者が増えたからといって夜遅くまで繁華街を出歩くようなことはありません。昼ですら街を歩く人は少ないですし、もう10時すぎたらシ~ンとしています。早々にお店が閉まってしまうわけです」
―― それはアベノミクスの効果が地方に浸透していないということでしょうか。
嶌峰氏「浸透しつつありますが、偏りがあると感じています。たとえば、地方ではインバウンド需要を見込んだ観光事業が一時ほどの勢いがなくなっていますが、引き続き積極的に取り込んでいこうとする地域と、成り行きに任せようという地域と、鮮明になってきました。
確かにインバウンド消費も、さすがに爆買いは落ち着いてきましたが、外国人旅行者も自分たちの興味のある場所には行きますし、欲しいモノには手を伸ばす傾向にあります。北海道や沖縄、金沢などの勝ち組の地方都市が出てきました。つまり、二極化してきたといえます。
そこには地域性のようなものもあるのですが、国として二の矢、三の矢を放っていかなければ、持続的な発展は望めませんし、成長に勢いがつきません」
―― 2017年に日本経済が好調だった要因は、どこにあったのですか。
嶌峰氏「日本経済のけん引役は、好調な企業業績です。とくに製造業は好調で、その要因は円安・株高にあります。その意味では、アベノミクス効果が表れているといえます。その半面、国内向けの小売りや外食サービスなどは伸び悩んでいます。また、大企業と中小企業の格差がいわれますが、そこが埋まらないことには景気拡大も頭打ちになります。
ただ、国内向け企業をみると、地方の地場産業でも卓越する技術力を持ち、自ら海外進出を志向して、世界を相手にしている企業の業績は悪くありません」
焦点は「消費」 払しょくできるか! デフレマインド
―― 消費が伸びていません。
嶌峰氏「ええ、そこが課題です。消費動向をみると、物価は一部では上がっていますが、それはエネルギーや輸入材料、輸入品であって、全体が底上げされているわけではありません。日用品などは安価な商品に手が伸び、高価な商品を買わない傾向が続いています。それが消費の伸び悩みの要因であり、物価上昇が一部にとどまっている要因なのです。つまり、消費者のデフレ意識はまだ払拭できないでいるわけです。
それでも最近はようやく、多少高くてもこだわりのあるモノは買う、その人の趣味に合ったモノは買うといった、付加価値があれば多少高くても使ってみようというムードが広がってきました。そのことはいいことだと思います」
―― 一方で、株価上昇が貧富の差を生み出しているとの指摘があります。
嶌峰氏「現在の株価水準は健全です。その国の成長率は、資産価値に比例します。資産価値の下落していた90年代後半は、銀行などの不良債権処理が進んでいたため、膿を出し切るまで下落が続きました。じつは2000年半ばには上昇していたのですが、このときはデフレで経済規模が縮小していました。資産価値も下がっていて、下落トレンドが続いていました。それが2013年に、経済は拡大基調に入り、それ以降はプラス成長が続いています。2018年に消費が上がっていくことで、その傾向が維持できると考えます」
―― 不安材料はありませんか。
嶌峰氏「北朝鮮情勢や米国のエルサレム問題など、リスクはあります。あとはマーケットが崩れるとしたら、『トランプ・スキャンダル』で、米国株のバブルが弾けたときだと考えています。2018年後半は、不穏な動きが出てきそう。そうなると、円安・株高が反転して、株安・円高が起こるかもしれません」
―― 2018年、日本経済がさらに上昇するために必要な「条件」はなんでしょう。
嶌峰氏「雇用をみると、有効求人倍率は1倍を超えて、好調にみえます。しかし、有効求人倍率がいいのは当たり前で、それは一方で人口減少しているからです。ですから、将来性を考えると、『いい』と喜べない現状なのです。賃金は1%の伸び率もありません。『賃金が上昇しないと消費は伸びない』と散々言われているのに、です。とにかく、肝心なのは賃金。これを上げていかなければなりません。
一方、経済成長の重しになっているのは、消費者のデフレマインドです。それを払拭しないと。注目しているのは需給ギャップです。2006~07年のいざなみ景気のとき、GDPギャップはプラスになり、需給が引き締まっていました。そこに米国のサブプライムローン、翌年(08年)のリーマンショックが起こったため、需給ギャップは急激にマイナスに逆戻りしてしまったのです。
それが現在は、2013年以降のアベノミクス効果で、再びプラスになりはじめてきました。ただ、物価上昇期待が高まっているとは言い切れません。GDPギャップがプラスになれば、つまり需給が引き締まれば、デフレマインドが縮小して物価が上昇に向いていきますが、それが定着するには時間がかかります。試算すると、好調な景気があと1年半は続かないと『物価上昇』『需給ギャップの引き締め』には届きません。そこを後押しするためにも、賃金アップが必要なんです。このまま持続的な成長を進めるためにも、安倍政権と日銀にはへこたれずに成長戦略を打ち続けるしかないのです」
プロフィール
嶌峰 義清 (しまみね・よしきよ)
第一生命経済研究所 経済調査部・首席エコノミスト
1990年3月、青山学院大学経済学部卒。同年4月、岡三証券入社。岡三経済研究所を経て、92年日本総合研究所入社、日本経済研究センターへ1年間出向を経た後、98年5月に第一生命経済研究所入社。米国経済担当、日本経済担当などを経て、現在は金融市場全般を担当。2011年4月から現職。日本ファイナンス学会会員。
著書に、「市場の動きを見極める経済指標の見方」(金融財政事情研究会)がある。